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1962/2024

Under Water

 彼の奥さんは、わたしにとってもはや敵同然の存在になった。彼の人生を貪り、自分はその苦労の上にあぐらをかいている悪魔のような女である。その魔の手から、なんとしてでも彼を解放してあげなければならない。




「あ、また会った。こんにちは」


「……こんにちは」


「今日はたくさん食材買ってる。お鍋でもするの?」


「はい。ちゃんこ鍋です」


「ちょうどうちも鍋。寒い時期はこれに限る」


「バナナとかイチゴとかカゴの中身が全然鍋っぽくないんですけど。なんでマグロの目玉なんて買ってるんですか?」


「闇鍋だから」


「……旦那さん、疲れて帰ってくるのに可哀想ですね。あなたのおふざけに付き合わされて」


「もともと闇鍋って言ってあるし、彼も材料買うことになってるからいいの。マンネリしがちな夫婦生活、こういう遊び心も必要でしょ?」


「闇鍋ってなにが入ってるかわからない鍋のことで、決してとんでもない食材に当たってしまうゲームじゃないと思いますが。というか食べ物で遊ばないでください」


「彼もよくそう言う。なんやかんや付き合ってくれるけどね」


「あんまり旦那さんの善意に頼り切ってると、そのうち愛想尽かされますよ」


「そのときはそのとき。でもそんなすぐに尽きる愛想なら、今頃とっくに別れてる」


「もし今まで別れられなかったのが、奥さん以上に素敵な相手が現れなかったからだとしたら、どうします?」


「……どういう意味かしら?」


「あなたが好きになるくらいの旦那さんですから、他の女にちょっかいを出されたとしても致し方ないですよね?」


「それは確かにそうかも。で、なにが言いたいの?」


「別に、特に言いたいことはありません。ただ気をつけたほうがいいですよ? どこからどんな不確定要素が降って湧くかわかりませんからね。旦那さんのことが大好きで、隙あらばあなたから奪おうとしてる不貞の輩がいないとも限りません」


「ご心配なく。あの人は私を差し置いて他の女に手を出せるほど器用でもないし、そんな度胸もない」


「度胸なんて必要ありませんよ。相手の女性がリードすれば。現にあなたはそうだったんでしょう?」


「まぁね。でもできるかしら?」


「できないことはないです。それじゃわたしは早く帰って弟においしい御飯を作ってあげなきゃいけないので、このへんで」


「はい、さようなら。ご忠告感謝するわ」




「ぺっ……。生意気な小娘が」


「迎えに来たらなんか妻がグレていたときの衝撃」




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