Living Message
手紙、電子メール、チャットアプリ。時代が進むに連れて、コミュニケーションのツールはさまざま発達してきたけれど、恋人同士のそれにおいて、たぶんその本質は変わっていない。送るときはドキドキするし、受け取るときはワクワクするものだ。
「あの人とチャットできるようになったんだけどさ」
「お? おお、姉ちゃんらしからぬ進展じゃん?」
「いや、これはたまたま会社の方針で。あの人がSNSアカウント作らざるをえなくなったの」
「じゃ、試しになんかメッセージ送ってみたら?」
「それなんだよ! ねぇ、なんて送れば返信返ってくると思う!? なんかあんまりどうでもいいことだとめんどくさいと思われないかな? でも普通に仕事関係のこと話しても距離縮まらないし……」
「ただ雑談するだけなんだからそんな深く考えるなよ。まぁ最初は仕事関係の話が無難なんじゃね? 雑談に持ってく機会はあるだろうしさ」
「そ、そっか。仕事関係の話……仕事関係の話……なんかあったっけ……」
「あー初々しいなぁ。好きな相手にはなにかと理由つけて接触したくなっちまうその感じ。恋してるねぇマブッ!」
「ああ、弟が暴漢に襲われた、とかなら慌てて返信くれるかな? ね? ね?」
「オブッ! ゲハッ! 誰か……助け……」
「あ、別にホントに困ってることじゃなくてもいいのか。適当にここがわからないって言って、話のきっかけ作っちゃお」
「……それあんまりやると仕事できないやつと思われないか?」
「だからほどほど、ほどほどに。この案件のこの部分どうしたらいいですかね、っと。じゃ、送信するよ?」
「もったいつけてないで早く送れ」
「待って、誤字脱字がないかちゃんと確認しないと。あ、句点抜けてた」
「どうでもいいわ。誰も気にせんわ」
「ふーっ……行きます。ハァッ!」
「メッセージ送るたびにそんな気合いと労力割いてたら精神力持たんぞ」
「よし、正座待機」
「よしじゃねぇよ。待機してないで飯作れよ。今日の当番姉ちゃんだろ」
「うぐ……じゃ、あんたわたしのスマホ見張ってて。なにか動きがあったら即報告するように」
「へーい。って、あ、早速へんし」
「『その部分はいつも課長に相談してからやってるとこだよね。明日でいいよ。お疲れさま』」
「早い。そして会話も一ターンで終わったな」
「……お疲れさまだって! こんな風に最後に一言添えてくれるなんて脈ありかな!?」
「落ち着けバージンガール。どう考えてもそれはただの社交辞令だ」
「えっと、なんて返そう? 『迅速な返信ありがとうございます! さすが主任です!』」
「太鼓持ちにもほどがあるだろ」
「『いまなにされてるんですか?』」
「そして突然の詮索」




