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196/2024

「今日は久しぶりに映画館に行ってきました」


<映画? 友達と?>


「いえ、見たい映画は一人で見るタイプです。なので一人で」


<君ってそういうの平気だよね。一人ラーメン屋とか一人カラオケとか>


「別に映画なら気にすることもないと思いますが、私ほどのレベルになるとあたかも隣にあなたがいるかのように振る舞うことができます」


<怖いよ。はたから見て完全に変人だろうね>


「映画を見た後はスイーツを食べにファミレスへ。店員に二名ですと告げ、アイスを二人分頼みました」


<見栄をはるな。おしぼりもお冷やももったいない>


「そしてアイスをあなたにあーんしてあげるかと思いきや自分の口へ」


<一人フェイントはさすがに意味がわからない。なんであの女はいちいち大仰な動作でアイス食べてるんだってなる>


「デザートを終えたらそろそろ日が暮れ始めます。あなたの腕に手を回し、今日の夕食はなににするかなどを相談しつつ帰路につきました」


<不自然な体勢で虚空に向かって何事かを呟きながら歩いてくる人間がいたら僕は逃げるよ。警察呼ばれるぞ>


「私ほどのレベルになると周りの人たちにもあなたが見えるようになるので大丈夫です」


<もうパントマイマーを目指せ。本当にそれで食べていけるよ>


「道行く人々が私たち二人を『見て! なんてベストカップルなの!?』とばかりに指差してきますからね」


<そんなポジティブな感想は持たれてないよ。ホントに大丈夫? 寂しさのあまり壊れてきてない?>


「元からです」


<それはそれで問題だ>


「でもこれで何度かナンパを撃退してますから。あなたの幻影に抱きついて頬擦りし『彼とデート中なので邪魔しないでください。ほら、あなたも何か言ってあげてくださいよ』なんて言えばみんな逃げていきます」


<だろうね。僕もそんなやつとは絶対お近づきになりたくない。なっちゃってるけど>


「では、私はこれからあなたとベッドインするので」


<僕はここにいるぞ。病みすぎだろ>


「ああ、そうでした。まずいですね。早く一緒の暮らしに戻らないと、幻のあなたと幻の結婚をし幻の子供をもうけて幻の家庭を作り上げてしまいそうです」


<確かにそのうち想像妊娠とかしそうだな。まずその妄想癖をどうにかしないと>


「うぅ、あれは幻……あれは幻……。幻……? あれ? 実は全てが幻かも……? このアパートも目の前の画面に映るあなたも、あなたと過ごしたあの日々すら全て、本当はなかった……?」


<今度は疑い過ぎだ。限度ってものを知らないのか>


「そしてこの全てを幻かもしれないと疑っている私の思考だけは、幻じゃない……!?」


<真理に覚醒するな>





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