Cursed Fetters
間接キス作戦は一度は功を奏したものの、二度目はなかった。いつも柳の下にドジョウはおらぬと言うけれど、彼もある程度間接キスに対して抵抗はあるらしい。
「主任、スムージーいります?」
「ん、いや、今日はいいかな」
「えー、せっかくお金がない主任のために買ってきたのに」
「変な同情やめてくれないかね。お小遣いが少ないだけで貯金はしてるからお金がなくはないんだよ。これでも年相応に持っているんだよ」
「自分で自由に使えるお金がない主任のために」
「具体的に言い直さなくていいよ」
「それにしても奥さんも酷くないですか? これだけ主任が身を削って働いてるのに、日給五百円だなんて。確実に労基法違反してます」
「日給五百円って言われると確かに最低賃金ってレベルじゃないな」
「わ、わたしが主任の、その、奥さんとかだったら、もっと出しますよ」
「アハハ……でも金額は自分で決めたんだ。僕の手取りだってそんなに多くないからね」
「自分に厳しいんですね、主任」
「厳しいっていうか、たくさん持ってても自分で使う対象がないしさ。これから家族も増えるし、将来のために貯金しないといけない」
「……男性にとって、結婚ってあんまりメリットないですよね」
「そんな個人のメリットデメリットなんて言い出したら、他人と足並み揃えるなんて、たいていデメリットしかないよ。夫婦で協力し合って困難を乗り越え人生を歩む、的な御託は、これだけ便利かつ社会保障の充実した現代で、どれだけ実際的かって話じゃない?」
「あ、案外冷めてるんですね……」
「『協力』の定義にもよるけどね。そばに居てくれるだけで安心できる相手だったら、結婚すればいい、くらいにしか考えてなかった」
「主任からプロポーズしたんですよね?」
「ん……あー、まぁ、そうだったっけ……? いや、半ば強引に彼女から結婚迫られて、否応なくって感じだった気が」
「は?」
「そうそう、彼女が突然仕事辞めてさ、来月から職がないのでよろしくお願いしますって言われて。えーってなって」
「えー、どころじゃないでしょうそれ!」
「それで仕方なく腹をくくって婚姻届出そうとしたら既に彼女の手によって提出されていた」
「……訴えたら勝てますよ」
「勝てるよね。まぁ楽しいからいいんだよ」
「結婚って……」




