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1957/2024

Fresh Straw

 会社から帰ってきたあと、あの人が飲んだスムージーの空の容器を手にしてベッドへ倒れ込む。自然と頬が緩む。小さいけれど大きな一歩を、あの人とわたしの恋の道を、歩み始めた、そんな気がした。




「うへ……うへへ……うへぇ……」


「なんか気持ち悪い生物がゴロゴロしてる。その様子だと上手くいったのか、間接キス作戦」


「大成功と言っていいねぇ。弟君よ、君にはお礼をしなきゃいけないね。なにか欲しいものはあるかな? お姉ちゃんがなんでも買ってあげよう」


「貯金しとけ。おれが欲しいものを買ってくれる人は間に合ってる」


「うへぇ、モテモテぇ。うらやましぃなぁ。お姉ちゃんは好きな人と間接キッスするので精一杯だよぉ」


「そ、そっすか」


「でもこういうドキドキも恋に慣れてないからこそ味わえるんだよねぇ。弟君はもう間接キス程度じゃドキドキしないでしょ?」


「人による。本気になってる相手なら興奮するし、飽きてきたなら特にどうとも」


「わーいクズ発言。お姉ちゃんは君をそんなふうに育てたおぼえはないぞぉ?」


「こちとら姉ちゃんに恋愛指導受けた記憶がねぇよ。あとさっきからその緩みきった口でヘラヘラするのやめろ。しかもその大事そうに持ってんのはなに?」


「これ? あの人が使ったストローだよぉ」


「…………」


「んふ。ああー、またキスしちゃったまたキスしちゃったぁ」


「恋愛経験に乏しい人間に無理やり恋愛テクを実践させるとこういうことになるのか……。おれは恐ろしい怪物をこの世に生み出してしまったのかもしれん」


「えへ……えへへ……うひっ」


「つーかいきなりストローかよ。もっと飲み口広いやつから段階的に行けっていっただろ。コップ、ペットボトル、ストローみたいな感じで」


「でも間接キスしてくれたもーん」


「向こうが意識してるかは知らんぞ。まぁ結果オーライっつーか、ストロー共用できるってことは案外脈ありなのか?」


「み、脈!? 脈あるの!? わたし脈あるの!?」


「途端に脈を探し始めるな。サスペンスの刑事か。まぁ死に体じゃないんじゃね? 嫌いだったらそもそも間接キスなんてしないだろーし」


「……頑張る! わたし頑張るよ! 見ててお父さん! お母さん! 絶対にこの恋を成就させてみせるから!」


「ストロー仏壇に供えんな」




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