No Interference
結婚しようと他人は他人だなんて、寂しい人間だと思う。主任の奥さんは、きっと今までに心から信頼できる人と出会えなかったのだろう。そしてその行動原理に彼までも沈めてしまっている。わたしだったら絶対にそんなことはしない。
「わたしのほうがきっと彼のこと愛してるもん……」
「枕抱きしめてなにキモいこと言ってんデュアッ!」
「お、ま、え、は! いつもいつもノックなしに部屋に入ってくんな!」
「したわノック! いつもいつも上の空過ぎんだよ恋する乙女が! 飯できたぞ!」
「食欲なーい……」
「姉ちゃん、そろそろ引き際見極めろよ。憧れるのはいいけど、あんまり一人に入れ込むと戻れなくなるぞ」
「もう戻れないかも」
「重症だなぁ。リハビリ的にそのへんの適当な男と付き合ってみ? ちょっとは世界変わるだろ」
「そんな軽い気持ちで男と付き合えるか。好きじゃない相手と人と二人でいてもお互いに辛いだけでしょ」
「大学時代に彼氏作らなかったん?」
「好きになった人はだいたいもう結婚してた……」
「姉ちゃんひょっとして年上好き?」
「ああ、そうだね。同い年とか年下のこと好きになったことないや。あんたのせいだ」
「おいおい姉の将来を案じて真剣に考えてやってる弟に牙をむくなよ」
「ありがとう。でも弟だろうと他人……」
「あん?」
「他人なんだってさ。兄弟でも親子でも夫婦でも、他人は他人っていうのがあの人の奥さんの考え方で、あの人もそれに付き合ってあげてるんだって」
「ふーん」
「そんな家族観、わたしだったらやだな。あんたはどう思う?」
「お互い干渉し過ぎないようにするって意味じゃ、いいブレーキなんじゃね? 言葉だけ聞くと寂しいかもしれんけど、そうやって意識しないと相手を束縛しちまうことを知ってるんだろ、その人は」
「あんたホントにわたしより年下?」
「これが恋愛経験値の差だな。束縛したこともされたこともある人間なら、ある程度は気持ちがわかるもんだよ」
「わたしも束縛されるくらい、誰かに愛されてみたいよ」
「……だから姉ちゃんも他の奴と付き合ってみって」
「はじめては好きになった人にあげるの……」
「こじらせすぎだろ」




