Perfect Reason
誰かが誰かを好きになる理由というのはよくわからない。自分が誰かを好きになる理由すらはっきりしないのに、そんなものわかるわけがない。
「そういえばわたし、主任から散々奥さんの話聞いてますけど、肝心の奥さんご本人を見たことないです」
「ああ、知らなくていいよ。どこにでもいる普通の人だから」
「あれだけ話しといて今さらなに言ってるんですか。後学のために知っておきたいです。主任のようなタイプの男性はどのような人を好きになるのか」
「知ってどうする野次馬が。そんなに知りたかったらみんなに聞けば? 見たことある人何人かいるし」
「他の人には既に調査済みです。いわくおっぱいが大きいと」
「……他には?」
「皆さん口を揃えてそれしか言いません」
「あいつらそんなんだからモテないんだよ。人間ああはなりたくないもんだね」
「皆さんの前で言ったら村八分必至な発言ですね。あと性格がキツそうだった、とは聞きました」
「は、確かに僕以外の人には冷たいからね、彼女」
「なんでめっちゃドヤ顔なんですか。ここまで知ってたらもう写真見せくれてもいいでしょう」
「そこまで知ってたらもう写真見なくていいじゃん」
「見せてくださいよぉ」
「やだ」
「ちょっとだけ。ホントにちょっとだけでいいですから」
「……一瞬だけだぞ。ほら」
「へぇー」
「おい、なにスマホかざしてる。あ! 録画!」
「情報入手完了しました」
「こいつ……! それ絶対他のやつに見せるなよ! もし出回ったら真っ先に君を疑うからな!」
「はーい……おっぱいホントに大きいですね」
「感想一言目にそれか。いやみんなそう言うけど。そんなに大きいかな」
「妊娠中のお腹より飛び出てないですか?」
「具体的に形容しなくていい」
「男の人って結局そこなんですねぇ……」
「テンションダダ下がりだな。そこじゃないよ別に。多くの男はそこしか見ないかもしれないけど、僕は違うんだよ」
「自分で言わないでくださいよ。じゃあ奥さんのどんなとこが好きなんです?」
「全部」
「で、でたー、特定の特徴を理由にすると後々面倒になりそうだからとりあえず惚気奴ー」
「なに言ってんだ」
「きっかけは? 好きになったきっかけはなんですか?」
「なんでそんな必死なんだよ。きっかけなんて忘れたよ。まぁ縁が重なったというかね、川のそばで二人して喋ってたら、いつの間にか結婚して子供までできてた」
「つまり主任と喋ってたらわたしにもチャンスが来るってことですか?」
「僕は恋愛成就の御神体かなんかではない」




