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1943/2024

Love Trigger

 わたしが入社したての頃に失敗して落ち込んでいたとき、優しく慰めてくれたのが主任だった。あのときの彼の言葉はまだ覚えている。もしお父さんが生きていたら、あんなふうに慰めてくれたかもしれない。そう思うと、彼への想いが止まらなくなった。




「緑茶に負けた……」


「帰ってきて早々なに言ってんだ」


「ねぇ、男ってパッパラパーな女の子が好きなの?」


「そんなん個人の趣味によるとしか言えないだろ。また例の先輩の話か?」


「そう。ハロウィンで奥さんが毎年いろんな仮装して楽しませてくれるんだってー。あの人はそんな奥さんが大好きなんだってー」


「姉ちゃんはなんで想いを寄せる相手の他人に対する好意を来る日も来る日も受け止めてダメージ負って帰ってくんの? 精神的なマゾなの? 修行なの?」


「そんなつもりないけど……。ただあの人と話したいだけ。でも基本的な話題があの人の惚気っていうジレンマ」


「答えんなってないだろ。なんでそんな半端なくウゼーやつに姉ちゃんが惹かれるのか理解不能だって言ってるんだよおれは」


「なんでかな……。やっぱり優しいから?」


「で、でたー! 好きな理由を言葉にできないからとりあえず定番の理由付け奴ーグプォァ!」


「きっかけはあるにはあった」


「……どんな?」


「言わない。言ったら絶対笑うから」


「笑わねーよ。姉の真剣な恋路を笑う弟がいるか」


「仕事で失敗したときに慰めてくれた」


「ぶははははチョッロ! なにこの人チョッロ! チョッ、待っ、サーセンしたっ! この通りだからスネにガチ手刀はやめろやめてください! 泣くから! 弁慶でも泣くから!」


「そのときは慰めてあげる。そしたら少しはわたしの気持ちがわかるんじゃない?」


「わかってたまるか! 冗談はこれくらいにして、ホントさすがにチョロすぎだと思うぞ。そんなんでいちいち好きになってたら、この世のだいたいの男のこと好きになっちゃうぞ」


「惚気話自体もそんなに嫌じゃないのかもしれない。もしわたしがあの人の奥さんだったら他人の前であんなに自慢してもらえると思うとゾクゾクする」


「……姉ちゃんそんなんだったっけ。昔はもっとアグレッシブっつーかサディスティックじゃなかった? いや今もおれに対してはそうだけど」


「好きな人に対しては弱くなっちゃうもんでしょ。男女問わずさ」


「姉ちゃん一途過ぎんだよ。もっとたくさん彼氏候補作れよ」


「一途じゃない恋なんて恋じゃない」


「乙女過ぎんだよ。あと頭カテェよゥッ! マジで石頭……」





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