Pulse Check
既婚男性が女性と会話するとき、奥さんや子供の話題を出してくるのは脈なしの兆候らしい。もし向こうに気があるのなら、家族の話題は避けたほうが雰囲気を壊さないから。
「ただし妻の愚痴などをもらす場合は脈ありの可能性が高いべっ!」
「いきなり覗くなバカ!」
「近づいても気づかないくらい熱中してんのがダメだろ。いやしかし実の姉の恋心を垣間見てしまうのはなかなかクるものがありますなぁ。ずっぺぇずっぺぇ甘ずっベェッ!」
「次はグーで行くから」
「……姉ちゃんグチもらされてる?」
「されてない! お風呂入ったならもう寝れば!?」
「弟として姉の恋の行方が心配なんよー。険しい道を歩いてるよーだしさ」
「心配じゃなくて下世話なだけでしょ。いちいちうっとうしい」
「心配ついでに弟としてひとつ言わせてもらうとすれば、既婚者はやめといたほうがいいって。茨の道だって」
「あんたには関係ないでしょ」
「いや全然関係するっしょ。慰謝料とか取られたらおれの将来にも影響するっしょ。姉ちゃんの奨学金の返済だってまだあるし」
「二百万くらい取られたところでわたしの貯金でなんとかなる」
「相場調べてんじゃねーよ」
「念のため。ホントに不倫なんてするつもりないから。そもそも向こうにその気がないのにできるわけないでしょ」
「向こうがその気になったらすんの?」
「……そのときはそのときで考える」
「男なんてちょっと誘ったらすぐその気になるぜ。おれも全然意識してなかった子に告られてその気になっちまうことあるもん」
「そりゃあんたはそうかもしれないけど、あの人はそういう感じじゃないから」
「おかず交換できた?」
「できた」
「よかったじゃん。脈アリじゃね?」
「そんなわけないでしょ」
「でも脈ありだったらいいなぁって思うからググりまくるんだろ? 『既婚男性 ランチ 一緒』『既婚男性 ふたりきり』『既婚男性 脈あり』『既婚男性 職場 恋愛』『既ゴッ!」
「次はグーだって言ったよね……?」
「ホントにグーで殴るなよ。少なくとも顔はダメだろ顔は……」
「あんたも恋すればわかるときがくる。相手が自分のことをどう思ってるか。ホントに気になって仕方ないってときがね」
「いや、おれは脈ありか脈なしかなんて気にしないでガンガン行くから。つーか姉ちゃんウブ過ぎっしょ。人の心は湧き水じゃないんだぜ? 脈のありなしなんてコロコロ変わるもんに振り回されんなよ。大事なのは雰囲気だよ」
「……上から目線やめて。そんなのあんたに言われなくてもわかってる」
「まぁおれと姉ちゃんじゃ恋愛偏差値が違うからなぁ。今んとこ脈なしみたいだし、せいぜい脈ありになるよう頑張ってー」
「その前にあんたを脈ナシにしてやるわ」
「ギブギブギブギブぎぶぎぶぶぶぶぅ……」




