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1936/2024

莫大な遺産

 土手に座り込み、沈む夕日と川のせせらぎを見つめながら。

 一日の終わりに、二人は他愛もない会話を始めます。




「自分が死んだ後、どうしますか?」


「はは、老後の話の次は死後の話か。死んだ後どうするかなんて考えるだけ無駄だろ。どうなるかわからないのに」


「死後の世界の話をしたいわけではありません。自分が死んだ後に何を遺したいかの話です」


「ああ、そういうことか。遺すっていうと、遺産相続の話が真っ先に出てくるけど」


「遺産相続以外でも結構です。例えば家のローンを遺したいとか」


「負の遺産じゃねーか」


「会社の事務関係に煩雑な手続きを定めたいとか」


「だから負の遺産だろ」


「ネガティブであっても未来に影響を与えることがその人にとって何かしらの意味を持つことがあります」


「迷惑極まりないな。それにネガティブな遺産はいずれなくされる可能性が高いじゃん。どうせだったら僕はもっと人の役に立つものや文化を遺したいな」


「例えばなんです?」


「うーん、一端の会社員になにができるかわからないけど、例えば特許とか?」


「特許はときに負の遺産になりますよ。あの会社が権利を独占しているせいで開発が進まない、とか」


「そういうことは確かにあるね。誰になにを遺すかっていうのも問題だな」


「例えば我が子に遺産相続をするにしても、それが元で兄弟喧嘩が勃発したら、それはポジティブな遺産とは言えないと思います」


「確かにね」


「『長男なんだから親父の借金はお前が多めに背負えよ!』みたいな」


「押し付け合いかよ! 奪い合いじゃないのかよ!」


「逆に借金であっても、それが家族の絆を強くするならポジティブな遺産と言えなくはないわけです」


「なるほど……?」


「『お父さんが築いた借金の山だけど、私たちみんなで協力して少しずつ減らしていきましょう』」


「君、そんなに僕をろくでなし野郎にしたいのか」


「もしマイホームを持つことになったら、百年ローンくらいで思い切った豪邸を建ててみるというのもありだと思いますよ」


「返済期間百年のローンなんてねーよ」


「まぁ遺産を遺す遺さない以前に、遺す相手ができるかどうかが問題なわけですが」


「今日一番真っ当な意見がそれか」




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