齧りかけなロマン
土手に座り込み、沈む夕日と川のせせらぎを見つめながら。
一日の終わりに、二人は他愛もない会話を始めます。
「焼き芋の次はおでんですか」
「うん。食べる?」
「いりません。もう学びました。どうせまたお金を要求するつもりなんでしょう」
「いや、今日は一人分しか買ってない」
「……帰ります」
「待って待って。言葉が足りなかった。晩ご飯前にそんなに食べたらお腹いっぱいになると思って、一人分しか買ってないってこと。分けっこしよう」
「はぁ……で、その煮卵はいくらなんですか?」
「具毎に値段なんて決めないよ。今日は僕の奢り。というか昨日も結局奢っただろうが」
「ちなみに私は今日も何も買ってきてませんし昨日の借りをあなたに返すつもりもありません」
「わざわざそんな開き直らなくていい」
「たまたまポケットにカラシが入ってましたけど、決してあなたのために持ってきたわけじゃないんですからね!」
「だろうな。おでんを食べることを予期してるなんてありえそうにないし、してたらしてたでカラシよりもっと良いもの持ってきてほしいもんな。まぁ冷めないうちにこっち来て食べなよ」
「では遠慮なく。がんもどきありますか?」
「あるある。僕も食べたいから半分こね。はい」
「ぢぢゅぢゅぢゅぢゅるぢゅるぢゅる!」
「汚いなぁ食い方が! ていうか半分って言っただろ!」
「不可抗力れす。んぐ、せっかくなのでがんもの中のお汁を吸い取ろうとしたら本体ごと吸い込んでしまいました」
「絶対わざとだ」
「次はゴボ天お願いします」
「ゴボウ全部持ってかれそうだな……」
「それが嫌なら頭を使ってください。いえ、使うのは口と言うべきですか」
「ああ、僕が先に囓ればいいのか」
「ちょ」
「はい、どぞ」
「どぞじゃないでしょう! なんで私があなたの食べかけを口にしなきゃいけないんですか!」
「それ今さら気にするのか」
「今のはポッキーゲームの要領で二人が両側からゴボ天を齧るのが正解でしょうが!」
「齧りかけ嫌がっといてそんなのはいいのかよ!」
「こっちはロマンがあるでしょう」
「絵面にロマンの欠片も感じない」
「まず脳内作家を美内すずえ先生か萩尾望都先生に設定してください」
「画風の問題じゃない」




