ケチな要求
土手に座り込み、沈む夕日と川のせせらぎを見つめながら。
一日の終わりに、二人は他愛もない会話を始めます。
「あ、焼き芋食べてるー」
「ああ、ここ来る途中でたまたま焼き芋屋さんに出会ってね。なんか無性に食べたくなって買ってしまった」
「私のぶんはちゃんと買っておいたんでしょうね?」
「もちろんあるよ」
「ほう、だんだんとわかってきたじゃないですか、あなたも」
「別に成長したわけじゃなくて、元からこのくらいの気は利くって」
「飲み物は?」
「もちろんあるよ」
「お、おおう。あなたもできる男になってきましたね。これは少し認識を改める必要がありそうです」
「だから元からだってば。じゃ、五百円ね」
「……は?」
「だから焼き芋代と飲み物代、合わせて五百円」
「えーっと、ちょっと状況が飲み込めないんですけど、ひょっとして私はいまあなたという小売業者に巧妙な手口で焼き芋を買わされようとしている……?」
「ただであげるわけないだろ。端数は負けとくよ。別に中間マージン取ろうとはしてないから、小売ではない」
「あの、普通は彼女にプレゼントするときにお金を取ったりはしないと思うんです。というか、それをしたら気が利くもクソもないのでは」
「クソとか言うな。だからプレゼントじゃないって。君も食べたがるかと思って、あらかじめ買っといただけ」
「私が食べないって言ったらどうする気だったんですか」
「食べないの? ほくほくで甘くて美味しいよ? 晩ご飯前でお腹空いてるでしょ」
「ぐ、じゃあ、晩ご飯食べられなくなるといけないので、いりません」
「あそう。今ならおまけであーんしてあげるのにな」
「ふ、普段そんなことしないくせにぃ」
「ホントにいらないの? まぁいらないなら僕が明日食べるから問題ないけど」
「さ、冷めちゃったら美味しくないですよ? 私にくれたら美味しく食べてあげますって」
「五百円」
「……ケチな男ってモテないと思うんです」
「モテなくていいよ。それとお金を要求しない男は暗にそれ以外のものを君に要求してるんだよ。だったら最初から経済的なやり取りに還元しちゃったほうが君も気が楽じゃない?」
「ただ奢っているわけではないだなんて、そんなことはわかっています! 私だって奢られたくない相手には自分から財布を取り出しますよ!」
「え、そうなんだ」
「この私がこれまで何人に奢られてきたと思ってるんですか。私にお金を要求してきた男はあなたが初めてですけどね!」
「やったぜ」




