罪な積み本
土手に座り込み、沈む夕日と川のせせらぎを見つめながら。
一日の終わりに、二人は他愛もない会話を始めます。
「忙しい毎日に押しやられ、積み本がどんどん増えていきます」
「積み本? ああ、買ったけど読めずに積んである本のことか」
「ともすれば本の山に押しつぶされてしまいそうなほど溜まっています」
「だったら新しく買わなきゃいいんだよ。あるいは電子書籍にするとか」
「ああ、自炊というやつですね」
「新しく買う場合はダウンロードで、今ある本は自炊ってことになるかな」
「でもあれ、綺麗にスキャンするには本を裁断しないといけないでしょう? 小さいころから本は大切にと教えられてきた身としては、それがどうも受け付けなくてですね」
「気持ちはわかる。本を粗末にしたらバチがあたるとか、よく言われたもんね」
「本とは著者の魂を文字の形で収めたものであり、ゆえに著者の汗と涙と社会への不満と自己主張と欲望とが渦巻いているそれを適当に扱ったら祟られるとおばあちゃんが教えてくれました」
「君のおばあちゃんの世界観独特だな」
「なんとか裁断せずにうまくスキャンできる技術はないものでしょうか」
「それ、仮にできたとしてスキャンしたあとの本はどうするの?」
「捨てます」
「結局か」
「だって邪魔じゃないですか」
「もう裁断して捨てればいいだろ。そして次からは紙の本を買うな」
「あ、でもでも、読んで印象に残った本は印刷物の形でちゃんと取っておきたいです」
「ただ印象に残るかどうかは読んでみないとわからないよね」
「そして期待値の高い本を買い漁った結果いまの状態があるという……八方ふさがりですね」
「君が自ら袋小路に陥ってるだけな気がする。二冊買えばいいじゃん、読んで面白かったらさ。作者へのお布施にもなるし」
「実際二冊目を買おうとしたら書店の本棚の前で手が止まりそうな気がします」
「こういうときだけ財布の紐かてーな」
「自分のお財布となると……あなたのお財布ならいくらでも緩められるのに」
「僕が君にせがまれたらイエスとしか言えない男だみたいな風評を広めるな」
「はぁ、ともかく積み本問題を解決するのはなかなか難しそうです」
「読まれずにそのままよりは、裁断されてちゃんと読んでもらえるほうが本だって嬉しいと思うけどね」
「本だけに、本望ですよね」
「君も自炊してやろうか」




