可換な生き様
土手に座り込み、沈む夕日と川のせせらぎを見つめながら。
一日の終わりに、二人は他愛もない会話を始めます。
「トリカヘチャタテムシという虫をご存じですか?」
「鳥かヘチャタテ?」
「何の二択ですか。変なところで区切らないでください。トリカヘ、チャタテ、ムシですよ」
「その虫がどうかしたの?」
「これが非常に珍しい虫なのです。なんとトリカヘチャタテムシはメスが男性器を進化させており、オスが男性器を退化させているという形態を持っていて」
「また昨日の話の続きかよ! ん、でもそれはどういうことなんだ?」
「そもそも、雌雄の定義というのは卵を作るほうがメス、精子を作るほうがオスというふうに決まっているのですが、トリカヘチャタテムシはメスがオスを探す役割を担っていてですね、オスを見つけると男性器を突き刺してメスから精子を受け取るんです」
「ああ、生殖器の形状が雌雄で逆転してるだけで、配偶子の使い方は変わらないってことか」
「つまりメスが肥大した陰核をオスのやおい穴に挿入するという非常にマニアックな虫!」
「そんな力説されてもよくわからないしわかりたくない」
「トリカヘチャタテムシの擬人化作品、ぜひ読んでみたいですね」
「なんでそんな生態を持つようになったのか気になるとか、もっと純粋な好奇心を持とうよ」
「世の女たちが優秀な男を探して奪い合い、男はそんな女たちにされるがまま精を貪られる……」
「フィクションとも言い難い気がする設定だ」
「ちなみに別の生き物ですと、観賞魚として人気のあるクマノミは群れの中で一番大きな個体がメスになるという特性を持っています」
「そうなんだ。他は全部オスなの?」
「はい。ただそのメスを手に入れられるのは二番目に大きいオスなんですが」
「なんか危なっかしい生態だな。もしその一番大きな個体が寿命や病気や他の魚に襲われて死んじゃったらおしまいじゃん」
「いいえ、そのときは二番目に大きかった個体が今度はメスになるのです」
「……なんだそのぶっ飛んだ生態」
「すごい妄想が捗りますよね! クマノミ・ファミリーを取り仕切る組織の女総長が死んだことで、それまで男として彼女をサポートしていた副総長が女になる、的なぐひょひょひょひょ」
「ダメだこいつなんかトランス状態に陥ってる」
「この生態を活かしてファインディング・ニモの二次創作を」
「やめろよ腐れ女子!」
「オニカマスに襲われ妻とほとんどの卵を失ったカクレクマノミのマーリンは、ダイバーに連れ去られた最愛の我が子ニモを助け出したのち、自らニモの妻となり……ぐほほほぉぉぉ」
「天下のディ○ニー作品だぞ!」




