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1928/2024

立腹な傘パク

 土手に座り込み、鈍色の空と川のせせらぎを見つめながら。

 一日の終わりに、二人は他愛もない会話を始めます。




「朝方、コンビニでビニール傘を盗まれました」


「ああ、安物だと簡単に盗られるよね。悪い人もいるもんだ」


「そもそもコンビニですよコンビニ! 三百円も出せばすぐそこで新品のビニール傘を買えるんですよ? なのに他人のを持っていくって、ありえなくないですか」


「そのくらいケチな人も中にはいるだろうね。それで窃盗までするのはどうかと思うけど」


「もしや私の傘に目を付けた傘蒐集家の方が持っていった可能性が……?」


「なんだその変態。そんなのに目付けられるくらいなら普通に盗まれたほうがマシだな」


「他人の使った傘を開いたり閉じたりして興奮する性癖の持ち主なんでしょうね」


「狂ってる」


「私の使用済みという点で確かに付加価値は高まっています」


「使用済みって言うな。傘は消耗品じゃないし」


「いっそのこと一回つかったら捨てられるようにしたらどうですかね」


「環境に悪そう」


「もちろんリサイクルするんですよ。傘の骨の部分を全部プラスチックで作るなりして」


「台風に対して無力すぎるだろう」


「ともあれ、ビニール傘というのは多少なり消耗品的な側面はあると思いますけどね。それが窃盗を誘発してしまっている可能性はありえます」


「高級にしたところで盗られるときは盗られるよ。少し借りるだけとか言い訳されて」


「少し借りるだなんて、それが許されるのは最終決戦で自分の武器を壊された主人公が死んだライバルの武器を手に入れたときだけですよ!」


「胸熱展開」


「主人公わりとそのまま借りパクしますよね」


「借りパクって言うな。意志を継いだんだ。持ち主いないんだしいいだろう」


「持ち主がいないと言えば、傘立てにずっと置いてある傘があるのも出来心を煽る一因でしょう」


「ああ、誰も使ってないならいいかって考えで持っていく人もいるのかな。いそうだけど」


「持ち主の意志を継ぐとでも考えてるんですかね」


「絶対考えてないしなんの意志だよ」


「そしてのちにその傘が伝説の勇者の使用したものだと発覚」


「しないよ。さっきからなんなんだそのファンタジー脳。仮に勇者が使った傘だったとしてなんだって言うんだ」


「彼はこの世界の裏に隠された大いなる渦に巻き込まれて死ぬのです」


「天罰願望」





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