フォーチュンなニキビ
土手に座り込み、沈む夕日と川のせせらぎを見つめながら。
一日の終わりに、二人は他愛もない会話を始めます。
「想われニキビができました」
「想われニキビ? なんだそれ」
「知りません? ニキビというのはできる位置によって意味が変わってくるのです。顎にできたら想われニキビ、おでこにできたら想いニキビ、右頬にできたら振りニキビ、左頬は振られニキビ」
「肌荒れでそんな占いみたいなことするなよ、涙ぐましいな」
「もう、あなたが私を想うせいでニキビできちゃったじゃないですかー」
「なにそのポジティブなようで責任転嫁的な発言は。僕が想ってるんだったら僕にはおでこにニキビができてなきゃいけなくない?」
「む……さてはおぬし偽物!」
「斬新な展開だな。本物だよ」
「うーむ、占いに齟齬が起きるのは精神衛生上よろしくないですね。あなたのおでこに私のニキビ擦りつけてアクネ菌移してあげましょうか」
「それは普通に衛生上よろしくないだろ! きたねぇな!」
「逆におでこにニキビができたら私のことを想うようになる、という因果関係の逆転はありえないでしょうか」
「君みたいな想像力たくましい人間ならありえるかもな」
「少なくともいま私のことを想ってるのはあなたではない誰かのようですね。モテるというのもつらいものです」
「ニキビに生理学的な理由以上の出現要因なんてないだろ。君のはたぶん便秘のせいだ。腸内環境が悪くなってると口周りが荒れやすいって聞いたことがある」
「……夢見る乙女にそんな生々しい現実をつきつけないでいただけますか? そんなことあなたに言われなくてもわかってるんですよ」
「うん。あと二十歳越えたらニキビじゃなくて吹き出物って言うんじゃぶげらッ!」
「私をいじめてそんなに楽しいですか?」
「いじめてない。一般論を述べている」
「二十歳過ぎてもニキビでいいじゃないですか。想われ吹き出物、ってなんか語呂悪いじゃないですか」
「だから想っても想われてもないっつーの」
「ニキビは青春のシンボルと言いますが、私、まだ青春終えたつもりないのでこれはニキビということで」
「早く大人になってくれ」




