強力な封印
土手に座り込み、沈む夕日と川のせせらぎを見つめながら。
一日の終わりに、二人は他愛もない会話を始めます。
「はぁ」
「どうしたの? お腹おさえて溜息なんか吐いて。なんか悩み?」
「ええ、悩みです。ちょっと深刻な感じの」
「穏やかじゃないな。なにがあったの? 具合悪い?」
「はい。実はいま、私のここにはあなたとの愛の結晶がいるんです」
「……は?」
「きゃあっ! 恥ずかしいぃ! 言っちゃいました!」
「いやいや、いやいやいやいやいやいや、覚えがない覚えがない。え? なんの話?」
「一昨日の夜、あなたの家にお邪魔しに行ったじゃないですか」
「おとといって、それ間違いなく僕関係ないだろ! しかも家に来てただ飯食っただけだし!」
「ご飯食べてるじゃないですか、一緒に」
「男女で一緒にご飯食べてデキるんだったら少子高齢化なんて問題は起こらねぇ。地球が人類で埋め尽くされる」
「ですからいま私のお腹のなかではあなたの料理を取り込んだモノがスクスクと育って」
「老廃物の話かよ! びっくりさせるなよ! いろんな可能性が頭をよぎったじゃんよ!」
「ただいま絶賛便秘中なのです」
「もうわかった言わなくていいわざわざそんなこと。深刻な悩みっていうから心配したのに」
「深刻でしょうが! 今現在私の健康が著しく損なわれているんですよ!?」
「日頃の食生活とか習慣の問題だろ。ちゃんと食物繊維取ってる? 水分補給してる?」
「オンナノコはぁ、どんな健康的な生活してても体の調子が悪くなる期間がアルンデスヨォ……! ホルモンバランスの影響とかでねぇ!」
「痛い痛いごめん悪かったから首の動脈つままないで」
「リンパの流れを阻害してあなたも不健康にしてやりましょうか!」
「リンパっていうか普通に血流が阻害されてるんですけど! 死ぬ死ぬ死ぬ!」
「はぁ……不思議ですよね。私のお腹には三日前からの食事の一部と体内の代謝後物質がつまっているんです。常識的にはもう出てきてもいいはずなのに」
「圧縮されてるんだろうね。水分抜けたら案外体積ないから」
「出てくる気配すらないのが余計に不安をかき立てます。ひょっとして一生このままなんじゃ……」
「なわけあるか」
「しまいには代謝が行われなくなって、全身が老廃物みたいになってしまうのでは」
「変な方向に想像力たくましいな。心配なら浣腸でもしたら?」
「……最低」
「なんで!?」




