不安なシステム
土手に座り込み、沈む夕日と川のせせらぎを見つめながら。
一日の終わりに、二人は他愛もない会話を始めます。
「私、読書という高尚な趣味をお持ち遊ばせであるゆえ、本屋とか図書館によく行くんですけど」
「ああ、うん。自分の趣味を他と比較してヒエラルキーの上段に置こうとする性格の悪さはおいといて、それがどうしたの?」
「お店に行くと必ずある無断持ち出し防止の装置があるじゃないですか」
「あの衝立みたいなやつね。商品のタグかなにかに登録された磁気情報を読み取ってるシステム」
「あれがものすごく苦手なんです」
「あー、気持ちはわからないでもない。通るときに少しドキドキするよね。別に悪いことしてなきゃ気にしなくていいってわかってても、なんか」
「誤動作してしまったらどうしようかと」
「経験あるの?」
「何度かあります。最近は精度が上がってきたのかあんまりないですが、あの鳴ってしまったときの周囲の反応と、こっちに歩いてくる係の人……あ、ああ……」
「非がないなら平然としてていいって。そんなびくびくしたら逆に怪しいだろ」
「もし誰かのイタズラでカバンの中に身に覚えのない本が入っていたらと思うと」
「そんな他人に恨まれるような心当たりあるの?」
「たとえ恨まれていなくとも、万引きや窃盗をネタに店長があんなことやこんなことを要求してくる可能性も」
「なにから得た知識だ」
「なのであの装置を通る前には必ずカバンの中を確認するようにしてます」
「変なところで小心者だなぁ。まぁ気を付けるのはいいことか。昔は巻いたイヤホンなんかに反応するときがあったよね」
「あと他所で借りた本がなぜか反応してしまったり」
「そんなことありえるのか」
「しかし冤罪だとわかればこっちのもの。遠慮なく謝罪を要求できます」
「直前まで気弱だったくせに急に態度デカくなるな。小物か。そもそも誤動作は仕方ないだろ」
「とにかくあの機械は苦手なんです。鳴ったり光ったりする必要あります? 係の人にだけわかればいいじゃないですか」
「盗もうとしてるやつを驚かすって効果もあるんだよ、きっと」
「音とランプ点灯くらいならいいですけど、もし槍やレーザーが飛び出してきたらと思うと」
「どんなアグレッシブなセキュリティだ」
「バイオハザードのワン隊長みたいにサイコロステーキにされてしまったら……」
「トラウマやめろ」
「なんとか対策できませんかね。機械を通るとき絶対反応しないようにカバンを上に持ち上げるとか」
「それは完全にセキュリティをかいくぐろうとしてるやつの行動だ」
「トイレの窓から脱出するとか」
「ドロボー!」




