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1920/2024

綺麗な花にはトゲがある

 土手に座り込み、沈む夕日と川のせせらぎを見つめながら。

 一日の終わりに、二人は他愛もない会話を始めます。




「今日コンビニで、すごく綺麗な女の人が店員さんの手際の悪さに舌打ちするのを見てしまいました」


「マジか。綺麗な花にはトゲがあるってやつだね」


「その言葉って、実際本当なんですかね?」


「どうだろ。綺麗な人だからって必ずしもトゲがあるとは限らないのは自明だよね」


「私のように」


「君は間違いなくトゲがあるから。サボテンの花だから」


「ほんのー小さなー」


「歌うな! そういうところが危険なんだよ!」


「おそらくこのことわざ自体はバラ科の植物にトゲがあることと、バラ科に綺麗な花が多いことから、綺麗な女性が倫理的でない振る舞いをしたときに使われるようになったのでしょう」


「うまいこと現実の状況と合致して、かつ使いやすかったから広まったんだろうね」


「改めて考えると、バラ科の花ってどうしてトゲがあるんですか?」


「進化論的には、トゲがあったほうが天敵に食べられにくいからって説明できるんじゃないかな」


「でしたら他の植物にもトゲがあったっていいじゃないですか」


「やだなぁそんなチクチクした世界。他の植物は身を守るほどの天敵がいないとか、トゲ以外の方法で身を守ってるとか、そもそも身を守らなくていいような別の生存戦略を獲得してるとか、トゲがない理由が他にあるんだよ」


「なるほど。確かに天敵がいなかった幼少期は私も自由奔放に育っていました」


「君はずっと天敵いないだろ。いま自由奔放じゃないなんて言わせんぞ絶対」


「自由なのはあなたの前だけですよ。会社では触るもの皆傷つける女です」


「嫌な同僚だ……。そんなに天敵多いの?」


「中間層の構成員ですからね。上は大火事、下は洪水」


「それはもはやトゲでどうこうできる環境じゃない」


「ですからトゲ以外の対策も身につけなければなりませんでした。毒とか殻とか擬態とか俊足とか怪力とか共生とか寄生とか」


「現実にいたら生態系ぶち壊しそうな凶悪生物だな」


「コンビニで出会った女性もきっとトゲを身に付けなければならないような厳しい環境で育ってきたんでしょうね」


「かもね」


「かたや温室で大切に育てられると誰にとっても都合のいいお人好しができあがる、と」


「誰の話かな?」




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