うろんなカニカマ
土手に座り込み、沈む夕日と川のせせらぎを見つめながら。
一日の終わりに、二人は他愛もない会話を始めます。
「ぎぃぃがぁぁぁぁ!」
「変なポーズでなにギガゾンビみたく叫んでるの? 恥ずかしいんだけど」
「蚊に刺されましたぁ」
「ああ、こんな河原で座って話してるんだから、ちゃんと虫除けスプレーしないと」
「あなたが虫除けスプレーなんてしてるせいで、私のほうに蚊が逃げてくるんですよ! 責任取ってください!」
「酷いいちゃもんだ」
「蚊に刺されるのは久しぶりです。最近なかったんですけどね」
「君んちは『蚊に刺される』派なんだね。うちは『蚊に食われる』だったよ」
「刺されたときの表現ですか。蚊に食われるだと、お歳暮で届いた缶詰を台所に置いておいたら勝手に食べられた、みたいです」
「カニ食われるじゃない。蚊に噛まれるって言う地域もあるみたいだよ。中国地方で多いらしい」
「蚊に噛まれるだとカニカマを動詞化して可能の助動詞つけたみたいです」
「ないよ、カニカマれるなんて言葉は」
「おいしいですからね、カニカマ。口さびしい日などついついスーパーに寄ってカニカマってしまうことしばしば」
「カニカマってしまう」
「あるいはカニ玉に本物のカニが使えないとき、カニカマるしかなくなってしまうわけですが」
「代用品を使うみたいな意味になった」
「カニ玉カニカマろうとしたがたまたまカニカマ売ってなかった! カニ玉カニカマろうとしたがたまたまカニカマ売ってなかった! カニ玉カニたまっ……したかみたま……」
「なに言ってんだこいつ。しかも土手に背中擦りつけて」
「背中を刺されたんです。肩甲骨のところなので手が届かなくて。別にあなたを誘ってるわけじゃありませんから」
「だとしたらどんな誘い方だ」
「もー痒くて痒くて、気が狂いそうです。搔いてください。服の上からでいいので」
「あんまり患部かきむしらないほうがいいと思う」
「痒いものは痒いんです。あとで薬塗るので」
「……どこ? このへん?」
「そこですそこ。思いっきり爪立ててギギギってやってください」
「こう?」
「あがっ……あああっ……いいん……っふ!」
「変な声出すな」
「んん、でもやっぱり服の上からだともどかしさがあります。襟から手突っ込んでいいので、生で搔いてくれませんか?」
「生で搔くってなんだよ!」
「おおおっ! ぎ、ぎもぢいいぃぃ!」
「やめろ!」




