迷惑な生き甲斐
土手に座り込み、沈む夕日と川のせせらぎを見つめながら。
一日の終わりに、二人は他愛もない会話を始めます。
「あなたって何が楽しくて生きてるんですか?」
「酷い暴言を吐かれた気がする」
「皮肉ではなく純粋な疑問です。さっき食べることの楽しさみたいなことを話しましたが」
「もっと他に聞き方があるだろうに。人生の楽しみねぇ。そういうのってあんまり自覚してどうこうってものでもないよね」
「言葉にすることでわかることもあります。もちろん私と出会う以前からあるものですよ?」
「今は君と話すのが楽しくて生きてる前提で話を進めようとするな」
「違うんですか?」
「たぶん君と出会わなくてもそれなりに楽しく生きていけてたと思うよ。別の出会いもあったかもしれないし」
「もちろん今はもう私なしでは生きていけなくなっているのでしょうけどね」
「そんなに承認欲求を満たされたいのか」
「ああ、他者に認められるというのは人生の高次な楽しみの一つですね。単にスポーツが楽しいとか、ファッションが楽しいとか、小説執筆が楽しいみたいな個々の楽しみではなく、それらの上位に位置する、報酬です」
「んー、まぁそういう楽しみもありなのかな。行き過ぎると不健全な気もするけど。それありきになったら常に他人の顔色うかがわなきゃいけなくなるし」
「各種ソーシャルネットワーキングサービスがここまで隆盛したのは、承認が視覚化されるというのが大きいのでしょう」
「あれはお気に入りやいいねの数がねずみ算式に増えてくから、ヒットしたときの幸福感がすごいだろうね」
「私は数より質重視です」
「何人に認められたかより誰に認められたかってこと?」
「いえ、誰に認められたかというよりどれほど認められたか」
「どうやって計るんだそんなの」
「どれだけ嫌がらせして大丈夫かを確かめればわかります」
「その計測法はいずれ破局を迎えるだろ! 耐久試験って基本的に対象が壊れるまで終わらないやつだろ!」
「でもほら、まだ耐える、まだまだ耐える、みたいな時の興奮度って凄いじゃないですか」
「わかるけど人間でやるなよ。科学研究の分野ならそういうのはちゃんと倫理規定に則ってやらなきゃいけないんだぞ」
「倫理的なレベルで嫌がらせするので大丈夫です」
「倫理的な嫌がらせってなんだ。言っとくけど、僕は君のことを認めてるから嫌がらせに耐えてるってわけじゃないからな。断じて」
「つまり、純粋に私との会話を楽しんでいると」
「ニコニコすんな」




