働かナイト
土手に座り込み、沈む夕日と川のせせらぎを見つめながら。
一日の終わりに、二人は他愛もない会話を始めます。
「ナイトプールが流行ってるらしいですね」
「流行ってねーよ。もう時間とか日付の感覚がよくわからなくなってきたけど、いまはたぶんプールに行くような季節じゃないよ」
「とりあえず夏ということにしておきましょう」
「自由過ぎる」
「自由編ですから。話題にするのが少し遅かったのは謝ります」
「誰に」
「それにしても不思議ですよね。ただ夜にプールに入れるというだけなのに、あそこまで人気を博すとは」
「コンセプトや雰囲気が新鮮だったから受けたんだろう。流行ってそういうもんだ」
「太陽の出ていない時間に人が大勢いる中で素肌を晒すというのも興奮材料なのかもしれません」
「そう言われると変態っぽく聞こえる」
「他にも夜にやってみたら流行するものってあるんじゃないですか?」
「普通は昼間にやるもので、ってことだよね。ナイトズーとかナイトミュージアムとかは、もうあるね。結構ウケてるらしいし」
「ナイトモール、なんていうのはどうですか?」
「夜のショッピングモール?」
「昼間は到底売ることのできないあれやこれやが手に入るんです」
「ただの大規模ないかがわしい店だろうそれは」
「あるいは出所も製造元も不明の製品が破格で買える」
「闇市じゃねーか」
「いまいち流行りそうにないですね」
「流行ったら困る」
「デイサービスを反対にして、ナイトサービスとか。これもいかがわしく聞こえますが」
「うん、そっち系のなにかにしか思えない。しかもデイサービスの概念から考えて流行とは無縁な気がする」
「逆に、普段は夜にすることを昼間にするというのも、意外性があっていい気がします」
「君が言うともうなんでも下ネタ発言に聞こえるなぁ」
「あなたの脳みそが下ネタに侵食されてしまっただけでしょう」
「誰のせいだ」
「でも夜にすることって、案外バリエーションがないです」
「ほとんど寝てるからね」
「昼に寝るのは昼寝以外の何ものでもなく……これが流行るとしたら私はかなり時代を先取りしていたことに」
「仕事しろよ」
「あとは昼間からお酒を飲むとか。これは流行りそう!」
「夜ってだいたいスイッチオフにする時間だから、それを昼間にやると完璧にダメ人間になるな」
「昼にビールを飲むくらい海外では普通ですよ」
「彼らはアルコール耐性が僕らと違うから」
「でしたらアルコール度数を落とせばいいのです。ここは一つ、欧米の大らかな雰囲気を取り入れ、デイアルコールを始めましょう」
「まぁ意外と流行るかもね」
「公園っぽい場所を設けて、ブランコやジャングルジムに腰掛けて静かに杯を傾ける……」
「リストラ感」




