べとなむ
土手に座り込み、沈む夕日と川のせせらぎを見つめながら。
一日の終わりに、二人は他愛もない会話を始めます。
「お腹空きました」
「そっか。じゃあバイバイ」
「……あーもう、お腹空きましたー」
「うん、だから家に帰ってご飯食べたら?」
「大丈夫です。グキュルルルル……。あっ、す、すみません」
「口で腹の鳴る音出されても。なんなんださっきから」
「ダメですねぇ。ヒロインのお腹がなったら主人公はニッコリ笑って『ご飯、食べに行こっか』って言わなきゃいけないはずですよ」
「いつもながら君の妄想の世界の都合は知らないよ」
「いつもながらなぜそんな面倒くさそうな反応なんですか」
「外食に行きたいならハッキリそう言えばいいのに」
「駅前に美味しいベトナム料理屋さんがあるんです。食べに行きましょう」
「ヤダ」
「ちょっと。ハッキリ言ったんですけど」
「僕は了承するとは一言も言ってないよ」
「行きましょうよ-。別にあなたに奢らせようとしてるわけじゃないですから。むろん奢ってくれるとおっしゃるならやぶさかではないですが」
「僕はやぶさかだ。君の要望に合わせてると食費がかさむんだよ。僕の一週間分の食費が一食で消えていく……」
「二週間分使わないだけマシじゃないですか」
「より悪い可能性と比べて現状肯定するな。どんなことにだって上には上がいるし下には下がいるんだよ。比較で真実は語れないんだよ」
「美味しいものを食べなきゃ人生の楽しみは半減だと思います」
「家で食べた方が美味しいし料理するのも楽しめる。料理しない君は人生を半分損してるよ」
「しないんじゃなくてできないんですー」
「胸を張るな」
「だいいちベトナム料理なんて一般家庭で作れないでしょう」
「作れないんじゃなくて作らないんだよ。僕パクチー嫌いだし」
「えー! 好き嫌いのないあなたが!? パクチー嫌いなんですか!?」
「雑草は食べ物じゃないから」
「私あれ大好きなんですけど! マシマシにして食べちゃうくらいなんですけど!」
「なんで勝ち誇った顔なんだこいつ」
「あなたにマウンティングできる項目が一つ増えました」
「あーそうそう、パクチー好きだって言う人って、パクチー自体が好きなわけじゃなくてパクチーが好きな自分のことが好きなんだろ」
「ブルルルルルァァァァ!」
「ごへぁ!」
「いまあなたは全てのパクチーファンを侮辱しました」
「全てじゃないよ! パクチー好きをわざわざ宣う人間だけだ! だってみんな明らかにドヤ顔して言うだろ!」
「好きを告げることに躊躇がないのは、それだけ自信があるからですよ。私はあなたが好きです」
「このタイミングでそのセリフ!?」




