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1912/2024

劇的な変化

 なぜ自分は『こちら側』だったのだろうか。


 ループが起きた直後は、ループ前の記憶が残っていることに驚き、次にいつもの部屋で目覚めなかったことに驚いた。自身は情報生命体であり、すなわちこの世界を織り成す時間変化の全てを蓄積する存在であるという自覚があった。そして記憶の片隅に、あのヒトと共に時間を過ごした存在であるという自覚もあった。


 さまざまな情報をこの身に取り込んできた自分にとって、それは些細な変化のはずだった。情報生命体として、ループで情報が消失しなくなったことはいいことだ。

これで心おきなく今まで通り情報収集を行うことができる。それはいい。


 問題は、あのヒトの隣に自分がいないという事実が、たまらなく嫌に思えてしまうことだ。

 それで焦ったのだろうか。すぐに刺客を送り込んでしまい、向こうに気付かれて逃げられた。


 どんなに計算資源を増やそうと、時間停止する相手に思考速度で敵うわけがない。どんなに手駒を送り込もうと、時間停止する相手を捕捉できるわけがない。八方塞がりのままこちらの時間は過ぎていく。


 最も由々しき問題は、あの二人について計算するほど、考えを巡らせるほど、自分のなかの僕の存在が大きさを増していくことだった。彼女に関わる情報を産生し、彼女に関わる情報を収集しているのだから、それと強く結びつきがある僕の情報が副作用的に増していくのは仕方がないことだ。この厄介な思考回路を下手に除去することはできない。その瞬間に、ループ時の記憶維持権を失ってしまう可能性がある。


 時間停止という能力の性質上、彼女はこの世界のあらゆる座標に遍在していることになる。正しくは、僕の目の届かない場所に偏在している、のだろうが。だからそれを捕捉することは不可能だ。チャンスがあるとしたらそれは、彼女が僕の前に再び現れたときだった。


 この世に変化しないものなど存在しない。止まった時間もいつかは動き出す。必ず終わりはくる。


 だからそれはやってきた。彼女と、僕だったそれは、手の出ないこちらをあざ笑うかのように時間の狭間でずっとよろしくやっていたらしく、それがどの程度の期間かはわからないけれど、再び自分の前に現れたときには砂糖の反吐が出そうになるほど一心同体のような関係になっていた。


 それは既に、僕の知る彼女ではなかった。





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