しぶしぶなラブラブ
雲一つない夕暮れ時。赤い夕日の中に浮かぶ街に、小さなため息が響きます。
何も動かない世界の中で、二つの影だけが揺らいでいました。
「小さい頃は、世に言うラブラブカップルというやつに憧れていた時期がありました」
「ふーん。その君が言うラブラブカップルの定義は?」
「定義は難しいので例えを出しますと、砂浜で追いかけっこしたり道ばたのベンチでチューしたり肩を寄せ合ったりするやつのことです」
「イメージが古い」
「あなたがイメージできるラブラブカップルだって似たようなものでしょう」
「……かもね」
「まぁそんな感じで、私もあんなふうに人目をはばかることなく好きな人とイチャイチャできたら良いなぁなどと、青臭い想いを抱いていました。恋に恋する状態というやつですね」
「過去形ってことは、今は違うんだね」
「少し大人になってから疑問に思うようになったんです。なぜ彼ら彼女らはあれだけお互いに好き好きアピールしないといけないのか」
「アピールなの? 単にやり取りを楽しんでるってわけじゃなくて?」
「もちろん周囲に向けてラブラブっぷりをアピールしているなどという邪推はしません」
「うん。お互いに相手に対して好きな気持ちを表すのが楽しかったり、嬉しかったりするんだろう」
「でもそれが二人のあるべき姿かと言われると、私はそうは思わないんですよ。好きであることを態度で示さないと安心できない関係って、だんだん窮屈になっていきそうで」
「ずっと同じ態度をつづけるのは、確かに努力がいるかもね」
「だから私は本当に好きな人とはなんでもない会話を続けられたらいいんです。別にそこに愛の顕れなど必要ありません」
「君にとってはそれこそが真のラブラブカップルだと」
「いえ、ラブラブカップルはラブラブしているものです。物事の名称というのは与えられるものではなく、その振る舞いで決まるもの。私はそれを目指したくはありません」
「じゃあ、こんなに僕にくっつかなくていいんじゃない?」
「……どうしてか、いまのあなたとはラブラブしていないと不安になるんです」
「…………」
「こんなつまらない話、本当はしたくないんです」
「…………」
「ねぇ、そろそろやめにしませんか?」




