長期的な戦い
雲一つない夕暮れ時。赤い夕日の中に浮かぶ街に、小さなため息が響きます。
何も動かない世界の中で、二つの影だけが揺らいでいました。
「ジェンガしましょう」
「……ひょっとして暇を持て余してる?」
「ひょっとしなくても、持て余してます。この世界で暇を持て余さないほうがおかしいと思います」
「でも肝心のジェンガを持ってないな。店から持ってこないと」
「自作したので問題ありません」
「暇人だな」
「別にブロックを作るくらい大したことありませんよ」
「さすが暇人だって意味で言ったんだよ。でもジェンガのブロックって、摩擦係数が低くないと抜けないよ?」
「大理石を研磨して作ったのでその点は心配ありません」
「暇人過ぎる」
「難しい位置のブロックをデコピンして抜く卑怯者がいますが、この大理石ブロックを抜くには指を二三本痛める覚悟が必要になります」
「卑怯じゃないだろ、技術だろ」
「本当はブロックを熱々に熱して、持っていられる時間にも制限をかけようかと思いましたが」
「無理やり賭博黙示録的にしなくていいよ」
「火が使えないのでやめました」
「逆に使えたらやったのか」
「さすがに普通のルールではつまらないので特殊ルールを導入しましょう。抜くのが無理だと思ったらパスできるという」
「え、それじゃ最終的にお互いがパスし続ける不毛なゲームにならない?」
「まだ説明は終わってません。パスするときは罰として相手の言うことをなんでもきかなければならないのです」
「君そういう設定するの好きだね」
「世界を歩いて一周してこいと言われたらそうしなければなりません」
「この世界ならではの要求だけど、待ってるほうが罰を受けてる感じになりそう」
「ですから要求はよく考える必要があります。はい、積めました」
「高いな。普通のジェンガってもっと低いだろ」
「このくらいでないと面白くありません。では私からいきます。ハッ!」
「おお、いきなりそんな下から抜くのか」
「ふ、どうですかこの高等テク。これで上のほうを抜きづらくなったはず。俄然ゲーム性が出てきたでしょう」
「抜きやすいところわかってない?」
「そのくらいは製作者側の役得ということで」
「……じゃあ僕はここ」
「そんな上のほうを」
「さっき君が抜いたブロック、簡単に抜けたってことは、もともと塔の頑丈さにさほど貢献していなかったってことだ。よって上から抜いても問題ない」
「なるほど。これは長期戦になりそうな予感がしますよ」
「はは、暇だからってそんなにずっとジェンガなんてやりたくないよ」
「ジェンガ編が始まりそうな気がします」
「本当にやめて」




