賑やかな孤独
雲一つない夕暮れ時。赤い夕日の中に浮かぶ街に、小さなため息が響きます。
何も動かない世界の中で、二つの影だけが揺らいでいました。
「自分以外の人類がみんな消えてしまった世界というのを、子供のころによく想像していました」
「思春期は想像力が発達する時期だからね」
「というか、嫌なことがあったとき、みんな消えちゃえばいいのにって思いませんでしたか?」
「君ほど周囲と折り合いをつけられなかった経験がないからアイタッ」
「私はよくありましたよ。ドラえもんに独裁スイッチという道具がありますが、あれが欲しいなと」
「あの話の顛末知ってるならそうは思わないだろう」
「はい。さすがに一人ぼっちは嫌なので、そこは都合良く自分以外にもう一人、誰か男子が生き残っているという設定で、誰だったらいいか、みたいな」
「誰だったらいいと思ったの?」
「そのときは、わりと誰とでもいいなと思いましたよ。クラス一の嫌われ者とか、学校一の不良とか、なんとかなるなと」
「一人よりはマシってことでしょ、それは」
「そうです。基本的に、清潔感さえあれば他のことはたいてい我慢できるんですよね。たとえ両手がマジックハンドでも」
「昭和のロボットか。いないだろそんなやつ」
「下半身がキャタピラでも」
「ガンタンクか。なんでなにかしらの肉体改造がされてる前提なんだよ」
「脳みそが宇宙人と融合してても」
「…………」
「外見はもちろん、性格もある程度許容できます。女の子をクリスマスの電飾で飾り付けて喜ぶ変態でも」
「今度はどこから湧いて出てきた」
「女の子を椅子に縛りつけて清涼飲料水をたらふく飲ませて足元に待機する変態でも」
「君の性癖じゃないのか」
「あ、でも面白さはそのときから重要視してましたね。いくら顔が良くて、優しくて、頼りがいがあっても、私の話に芳しい反応を返してこられないのであれば、一人でいるのと変わりませんから」
「なるほどね。いわゆる笑いを取りにいく面白さじゃなくて、君が弄って面白いってことね」
「よくわかってますね。さすが情報生命体と融合しただけのことはあります」
「関係ないよ?」
「翻って今を考えてみますと、一緒にこの寂々たる世界にいてくれる人があなたであるというのは、結構とてつもない幸運だと思います」
「それはなんというか、光栄だね」
「でもやっぱり……いえ、なんでもありません」
「うん?」
「とりあえず一人は寂しいので抱きしめてもらえますか?」




