謎な穴
土手に座り込み、凍りついた夕日と川のせせらぎを見つめながら。
一日の終わりに、二人は他愛もない会話を始めます。
「ドーナツの穴って、なんであいてるんでしょう?」
「久々に超絶どうでもいい疑問が掲げられたな。ドーナツは元々穴のあいていないボール型だったんだよ。そこからトーラス形状へと変化した経緯には諸説あるけど」
「とーらす形状?」
「おなじみのドーナツの形のことを幾何学の言葉でそう言う。君がよく知るところでは、RPGのワールドマップも上下左右が反対側と繋がっているトーラスだ」
「ああ、言われてみればあれって球形じゃないですね。それで、今のドーナツ型になった経緯というのは?」
「一説には穴のあいていないドーナツよりもあいてるドーナツのほうが熱が通りやすいかららしい」
「なるほど。てっきり棒や紐に通して陳列しやすいからだと思ってました」
「そんなふうに店先に並べられてるドーナツ見たことないだろ。棒なんかにスタックしたら一番下のやつから容赦なく潰れてくだろ」
「ドーナツ食い競争するときに吊り下げやすいというのも私のなかでは有力な仮説でしたが」
「まずドーナツ食い競争なんていうのを初めて聞いたし、パン食い競争と比べて食べにくいと思う。咥えたそばから半分ちぎれてもったいないことになると思う」
「もちろん落としたらその場で失格。その難しさがゲーム性を生むのです」
「本当にドーナツの穴がそのために作られてるとしたら、ドーナツ食い競争はもっとメジャーな競技になっていてもおかしくない」
「難しすぎるゲームというのは流行らないのが世の常。コンボイの謎しかり、封印されし記憶しかり」
「前者はともかく後者はテクニックの問題ですらないやつ」
「もう一つ私が考えたのは、ボールドーナツを作るときに残ったカス説」
「もったいな! わざわざくり抜く意味ないだろ! 丸めろよ!」
「火が通りやすいという理由もわかるようでよくわかりませんよ。だったら最初から小さめサイズで作ればいいじゃないですか」
「それはまっとうな指摘だね。だから説の域を出ないんだと思う」
「実は違う理由があるのだと思います。真実というのはたいていしょうもないものです」
「君の考えることがしょうもないだけじゃないのか」
「リング状にすると持って食べやすくなりますから、発明者はおそらく女の子がドーナツを両手に持って食べる仕草に萌えを見出したのでしょう」
「特殊性癖過ぎる」
「袖余りの女の子がドーナツを両手に持って食べる仕草に……」
「よりマニアックにしなくていい。というか、それだったらリング状より棒状のほうがよくない?」
「……は?」
「いやいや、あくまで一般論だよ? 男性の一般論」
「…………」
「ゴミを見るような目で見るな」




