神聖な野望
土手に座り込み、凍りついた夕日と川のせせらぎを見つめながら。
一日の終わりに、二人は他愛もない会話を始めます。
「時間停止した状態で、子供って作れるんでしょうか?」
「……いきなり何を言ってるんだね、君は」
「ふと気になったというか、思いついたんです。いまは二人きりしかいないこの世界ですけど、子供を作って人口を増やしていくこともできるのではないでしょうか」
「まず子供たちの間の交配は遺伝的なリスクがあるだろう。それにつけても君のような能力を持たない子供が、停止した時間のなかで活動できる可能性は低い」
「まぁ、できないならできないで都合がいい部分もあるんですけどね。いろいろと遠慮がいらないという意味で」
「君はもう少し発言内容を遠慮すべきだろう」
「それでも万が一子供を作れる場合を考えると、私たち二人から人類をやり直すことが可能になりうるわけです」
「倍々で増えていくとしても何百年もかかるぞ」
「子供たちはそのうち、自分や私たちと違って停止してしまっている人間たちに疑問を持つようになるわけです」
「リアルな彫像ということにもできないだろうな。触れれば人の感触がするわけだし」
「本に書いてある現象が起こらないことも不思議に思うでしょう。そしてついに私の口から世界の真相を聞き出した子供たちは、あなたという時間の支配者に対して反旗を翻し」
「おいおいおい」
「あなたを倒して見事、時間の流れを取り戻したのでした。――ここまでが前編として描かれます。後編は時間の流れが戻った世界で、旧人類たちとどう折り合いをつけて生きていくか」
「突然戸籍のない人間が大量に現れたらパニックになるな。リソース不足で争いに発展するのが目に見える」
「それでも最後には私とあなたの遺伝子を受け継いだ優秀な子供たちが生き残り、私を女王として祭り上げ、世界に平和が訪れます」
「ちゃっかり世界征服してるんじゃない」
「とまぁ、そんな冗談はさておき、子供作れるんでしょうか?」
「どうなるかは試してみないとわからないな。僕らが歳をとるのかどうかも不明な現状だと」
「試す……」
「そう。試す」
「……ん」
「…………」
「くふ、ん、あ……ひぁ」
「…………」
「……はぁ、やっぱりやめましょう。もしできたらできたで、こんな面白みのない世界に産み落としてしまっては可哀想ですし、別れも辛くなります」
「ここまでしといてか」
「正直、あなたのキスが上手すぎて萎えました」
「難しいな」




