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1904/2024

貴重な忖度

 雲一つない静かな夜。無数に輝く街の光にまた一つ、小さな明かりが混じります。

 そのささやかな灯の中で、二つの影が揺らいでいました。




「それじゃ、行ってきます。ただいま」


「出かけるときに時間停止されると発言がシュールそのものというか、ギャグでしかないですね」


「仕方ないだろ。止めないわけにもいかないんだから」


「偵察と陽動、ご苦労さまです」


「繁華街のほうにそれっぽく痕跡を残してきた。しばらくは向こうを探し回るだろうね、連中」


「こんな子供だましの策略に引っかかりますかね?」


「僕じゃなくて君の考えた策略だって点に意味がある。確かに統計的にはわざとらしいけど、どうせ探してるのは組織の下っ端たちだ。足止めくらいにはなる」


「そうだとしても、いつまでもこの状態というわけにもいかないでしょう。あなたの時間停止って止めていられる長さに制限ないんですか?」


「精神的にも肉体的にも疲労を感じたことはないから、理論上限界はない」


「……つくづくズルい能力です」


「君みたいに時間を止めてても動けるやつもいる。体力勝負になれば確実に負ける」


「時間を止めたまま、遠くに逃げちゃえばいいんじゃないですか?」


「現時点で距離を取ることはたいした解決策にならないだろう。三日経てばまたここに戻ってきてしまうから。……が、時間を止めるというのは賛成だ」


「時間の止まった世界で、ずっと二人きりで過ごしたいと?」


「半分間違ってる。そういうメルヘンチックな無間地獄を期待してるんじゃなくて、思考回路を再構築するための時間を取るんだよ」


「はぁ」


「僕の行動が向こうに読まれてしまうのは、思考回路が類似しているからだ。しばらく君と話していれば、だんだんとズレが生じて読まれにくくなる」


「なるほど。つまり二人きりでずっと過ごすってことですね」


「わかってるのかコイツ。まぁ有り体に言うとそういうことなんだけど……。一つだけ問題点があるとすれば、君の思考回路のほうが僕の思考回路に似てきてしまうことかな。そうなったら本末転倒だ」


「それならご心配なく。私のほうからあなたに歩み寄ったり譲ったり慮ったり忖度したり共感したりすることなんて滅多にないので」


「そうか、なら良かった。……良かった?」






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