難解な展開
『彼女』に対して、自分がこの身体の持ち主の精神を取り戻したという旨の発言をし、その言動を再現したことにさしたる理由はなかった。もちろんそれは虚偽ではない。取り戻すもなにも、元からそれは自分の中にあるものだ。薄れてしまってはいるが、ゆえに模倣ではなく再現と言える。その意識が彼女のことを傷つけまいと、安心させるような方針を取った可能性はおそらくゼロではない。
「さて、知識と情報の塊のような存在をもってしても、このループを抜け出ることが不可能となると……どうしたものですかね」
「結局のところ経験値稼いで自由度を上げてくしかないってことだろう。ループ期間が延びてるってことは、そのうち無期限になるかもしれないし」
「いやいや日常に戻りたいんですけど。このままループしなくなるのではなく、怪人とか異能力とかがない普通の世界に」
「日常よりも非日常がいいって、前に言ってなかったっけ?」
「なんでも過ぎれば食傷ですよ。和食ばかり食べ続けるのは飽きますが、世界の珍味ばかり食べ続けるというのも同様に飽きが来ることに気づいたのです」
「日常的でないイベントって意味では同じことが続いてるわけだしね。ある種の情報量は少ない」
「なにより話がどんどん混沌としてきて、理解が追いつかなくなりますよ。足しげく通っていた近所の蕎麦屋が突如として謎の創作料理を始めた的なやめてくれ感があります」
「うん、意味理解の側面から見ても得られる情報量が少ないかもね」
「さっきから情報量情報量うるさいですね、あなた」
「まぁ自由度が上がってるわけだから、それを全部把握しようとするのは大変だ。でもそれは置いといて……止まれ」
「はい?」
「君に言ったんじゃないよ。わざわざ変なポーズで固まらなくていい。君の後ろにいるやつに言ったんだ」
「後ろ? わっひゃあ!」
「鳥型の怪人だね。君をどうするつもりだったのかな」
「これって時間止めたんですか?」
「うん。止めてる」
「でも私、能力使ってないのに動けてますよ?」
「動けるよ。僕を原点にした座標指定で止めたからね」
「ほぉ。いつの間にそんな新技を……」
「ただし僕も動けない。原点がずれちゃうから」
「……なんかバカっぽい技ですね」
「君も止めてやろうか」
「ふ、私はあなたの癖を見抜いて……あ、そういえば猫の超動体視力なかったんでした」
「だね。それで?」
「今日のところは謝っておきましょう」
「その調子の良さはいつか災いすると思うよ。……いや、もうしてるのか」
「しかし空中で羽ばたきもせず静止している鳥人間ってシュールですね。ああっ! 手がくっついちゃいました!」
「不用意に触ろうとするなよ。座標指定って言っただろ。対象指定じゃないから、座標内に入れば当然君も止まる」
「なるほど。でも頭さえ無事なら時間を炎症させて抜け出せます」
「その能力、意味わかんないけど便利だね。うん、次は君に情報生命体と融合してもらおうか」
「これ以上よくわからなくなりそうな展開はやめてください」
「そもそも誰のせいかな」




