微妙な違和感
土手に座り込み、沈む夕日と川のせせらぎを見つめながら。
一日の終わりに、二人は他愛もない会話を始めます。
「あのー、お疲れ様です」
「なんだよ、その控えめな挨拶は」
「だってほら、あなたループ前は凄いカラダになってたので。も、元に戻ってますよね?」
「ご覧の通りだよ」
「中身も、ですか?」
「外見だけじゃなくて、ちゃんと中身も僕だよ。そんなに警戒するな」
「良かったぁ。あのままだったらどうしようかと思ってました」
「ああ、いかな宇宙生命体でもループの力には敵わなかったみたいだ」
「すみませんでした」
「ん? なんで謝るの?」
「あなたをダシに使ってしまったのは、我ながら非道過ぎるなぁ、と」
「ダシ? ああ、そんなの気にしなくていいよ。少しびっくりしたけど、いい経験だったし。結果的にいくつかわかったこともあるからね」
「毎度のことながら、あなたの宇宙よりも広い御心に感謝します。私だったら間違いなく絶縁してますよ」
「なんてコメントすればいいか困る発言なんだけど……。それより僕は君がどうやって洗脳を回避したのかのほうが気になるね」
「洗脳ってあの、頭に変な機械はめて、気持ちよくなりながら延々と謎の文言を聞かされ続けるやつのことですか?」
「うん。洗脳っていうか催眠に近いかな」
「……簡単ですよ。私の能力で自分の身体の一部を炎症させて、気を散らせれば催眠どころではないので」
「なるほど。そういう回避方法があったか。賢いね」
「最初はあなたへの愛でなんとか耐えようと思いましたが、無理でした」
「そういう夢のないことはわざわざ言わなくていい」
「好きな人への想いを容赦なく書き換えられてしまう、というのもある種の夢があると思います」
「それはそういう性癖の持ち主にとっての話だろう」
「あなたの身体をヤツが乗っ取ったときは、不覚にも興奮してしまいました」
「やっぱり謝ってくれるかな」
「正義の味方が悪に心を染められてしまう展開って、どうしてあんなに魅惑的に映るんでしょうね? これは私だけが感じてしまうものではないと思うんですけど」
「その人が普段しないような言動をするということは、情報量が大きいからね。脳が喜ぶんだろう」
「……あなたの発言も、少し情報量が大きいですね……」
「何か言った?」
「いえ、何も」




