ドライバー
土手に座り込み、沈む夕日と川のせせらぎを見つめながら。
一日の終わりに、二人は他愛ない会話を始めます。
「今日はドライバーの日です」
「ド(10)ライ(1)バー(8)って語呂合わせはかなり無理がある気がするけど」
「というわけで、ドライバーについて話しましょう。マイナスって存在する意味あるんですかね?」
「そういうこと言うなよ。マイナスだって必要とされてるから存在するんだろ」
「じゃあマイナスドライバーの使い道を教えてください」
「またこのパターンか。えっと……開かない箱に差し込んでこじ開けるとか」
「そんな状況なかなかありませんよ。マイナスドライバーなんてせいぜい、鍵穴に突っ込んで向こうから覗いてる人の目を潰すくらいが関の山です」
「君だったのかあの都市伝説の元凶は」
「プラスがあるならマイナスも、みたいなノリで作られたんじゃないんですか? 酢豚の中のパイナップルくらいいらないです」
「ふざけんなコラ! パイナップル入ってなきゃ酢豚じゃないだろうが!」
「あなたとは食べ物に対する意見がことごとく合致しませんね。先が思いやられます。あとそんな激昂しないでください」
「ごめん。食べ物のことになるとつい」
「まあ、ドライバーの日の『ドライバー』って運転手のことなんですけどね」
「今までの会話はなんだったんだ」
「最初から運転手の日という名前にしないほうが悪いんです」
「それだと語呂合わせにならないから」
「そういえばあなた、車持ってましたよね。色褪せたダッサイ軽のワンボックス」
「酷い言い草だ。車なんて乗れればいいの」
「せっかくなら私はもっとかっこいいやつに乗りたいです。お金がないなら今のをオープンカーにしましょう」
「ダサッ! ワンボックスのオープンカーとか聞いたことないよ」
「斬新なデザインに道行く人みんなが振り返るでしょうね」
「どう想像してもハリボテとしか言い様のないフォルムに……。そりゃ振り返るだろ」
「注目してくれればそれでいいんです」
「ただの目立ちたがりか。そういう君は車持ってたっけ?」
「車はありませんが運転ならできますよ。あなたの運転なら、ね」
「できてないから。あと全く上手くないから」
「ああ、運転するのはあなたのほうでしたか。私は乗られるほうですもんね」
「どういう意味か分かりかねるんだけど」
「私はネジ穴のほうですもんね」
「ドライバーに話を戻すな」
一人が腰を上げると、もう一人も立ち上がります。
そうしてどちらからともなく手を繋ぎ、今日に背を向けて、去っていきました。




