電話越し
「もしもし、チャーシューメン一つお願いします」
「あー電話間違えてますよ。うちラーメンの出前やってないんで。っていうか彼氏とラーメン屋の番号間違えるな。わざとだろ」
「無事目的地に到着したようでなによりです。元気でしたか?」
「当たり前だろ。昨日今日で具合悪くなってたら先が思いやられるよ」
「長旅で疲れてるかと思ったんです。運転しっぱなしで大変だったでしょう? 新幹線で行けば良かったのに」
「車置いてくわけにもいかないだろ」
「こっちはアッシーもメッシーも同時に失って不便でなりませんよ」
「今までどれだけ都合よく利用されてたんだ僕は。この機会に少しは自立しなよ」
「……やっぱり電話越しだと会話も味気ないですね」
「唐突に話題を変えるな。まだパソコンのセッティング終わってないから無理だって。明日にはなんとかするよ」
「早くしてください。風邪ひいちゃいます」
「服を着ろ。サプライズでもしようとしてるのか」
「ふふふ……見えないと気になるでしょう? 私が受話器の向こうでどんな恥ずかしいことをしているか」
「どうでもいいよ。また馬鹿なことしてるっていうのは容易に予想がつくから」
「じゃあ何してるか当ててみてください。見事当たったら写メを送ってあげます」
「いや、別に欲しくない。君と同じくらい変態じゃなきゃ当てられないだろうし」
「ならヒントをあげましょう。全裸」
「知ってる。もっと他のヒントくれ。いや欲しくないけど」
「では第二のヒント、あなたの歯ブラシ」
「まじで何してるんだよ。そんなの捨てたはずだぞ、ボロボロだったし」
「もったいなかったので拾っておきました」
「もったいないっていうのは利用価値があるものに使われる言葉だ。あ、掃除とかしてるの?」
「もっと他のことに使ってます。気になるでしょう?」
「不安にしかならない」
「言っておきますが、変態度はそこまで高くありません。一般的な女子なら誰しもやってみたいと思っていることです」
「わからない。まず君の中の一般的な女子がわからない」
「ブッブー、時間切れです。正解は、あなたの布団に全裸でくるまりながらあなたの歯ブラシで歯を磨きつつあなたの声を聞いている、でした。あとはあなたの顔さえ映れば遠く離れながらにしてあなたをすぐそこに感じることが」
「早く寝ろ」
「もっとエッチなことしてると思ってたでしょー?」
「おやすみ」




