同棲終了
コタツの中で足を温め、窓の向こうの夕焼けと街の灯りを見つめながら。
一日の終わりに、二人は他愛ない会話を始めます。
「引っ越し屋さんが来たらなんだか一気に閑散としちゃいましたね」
「一人分の持ち物がなくなったわけだからね。1LDKだし、まあがらんともするだろう」
「これでしばらく会えなくなるわけですか」
「うん。いつまでかわからないけど……寂しい?」
「明日から私は誰に向かってボケればいいんですか」
「壁にでも向かってボケてろ。電話すればいいだろ。インターネット電話なら映像付きだし」
「それでも笑いの幅は狭まりますよ。ボディタッチ系は不可能ですし、パソコンの前ですからモノボケも難しいときました」
「えっと、遠距離恋愛するんだよね? 遠距離漫才じゃないよね?」
「恋愛についてはもう悩んでも仕方ないかなと。離れていても繋がってますよ、通信回線で」
「なんて物理的な絆」
「実際こんな時代でなければ二人ともさっさと別の恋人作っちゃいそうです」
「そんなことないよ! 僕はないよ! 婚約までしたのに!」
「私もあり得ませんよ、たぶん」
「そこは確約しろ」
「愛は約束の上ではなく、信頼の上に成り立つものです。あなたは私を信じてください。私はあなたを信じますから」
「お、おう。なんか良いこと聞いた気がするけど婚約全否定してない? 指輪やっぱり返してもらったほうがいいかな?」
「……貰ったものは返さない主義です」
「都合いいなぁ。――さて、この町ともお別れだし、せっかくだから外に美味しいものでも食べにいこうか。奢るよ」
「じゃあ私ブランド牛のしゃぶしゃぶで」
「やっぱ自腹切れ。そういうのが食べられるとこにはいかない。普通にラーメン屋とか」
「は! 美味しいもの食べに行こうっていっといてラーメンですか。低層民ですこと」
「置いてくぞコラ。ラーメン美味しいだろうが」
「確かに美味しいですけど、私はあなたの手料理が食べたいです」
「あー、別にいいけど、マイ調理セット送っちゃったから大したものできないよ。何食べたいの?」
「ブランド牛の……」
「結局素材次第じゃねぇか!」
「あなたの料理ならどんなブランド牛でもおいしいですから」
「だろうな!」




