タガ
コタツの中で足を温め、窓の向こうの夕焼けと街の灯りを見つめながら。
一日の終わりに、二人は他愛ない会話を始めます。
「さて困りましたね。せっかくあなたがヤル気になってくれたというのに、今度は私のほうで問題発生とは」
「ヤル気にはなってないよ。酩酊状態で理性飛びかけてるときに誘惑されたらだいたいの男は動物化する」
「凄かったですよ。まるで私を貪り喰わんとするかのごとく、こう、両腕を押さえつけて押し倒してきてですね」
「そんな事細かに報告しなくていい。僕が覚えてないことなんていくらでも捏造できるから」
「私の服を乱暴に脱がしつつ息ができなくなるほど激しく舌を絡ませ」
「レーティング! レーティング! 事実だったとしても配慮しろ! 全然覚えてないけど、それもう君のこと君だって認識してないよね? 本能のまま襲ってるよね?」
「そんなことありません。小恥ずかしいセリフと一緒に私の名前連呼してましたもん」
「うわぁ、本当だったら完全に壊れてるな」
「いつもはのっぺらぼうに振る舞ってるくせに」
「ぶっきらぼうな。そんな化け物演じた覚えないから」
「内心ではこんなに私のことを想っていてくれたなんて、感動しましたよ」
「婚約指輪まで渡したのに伝わってなかったことがむしろ驚きだよ」
「言葉にしなければ伝わらないこともあります。そのあとは全身の穴という穴を舐められ」
「おい! それは絶対嘘だろ!」
「……ホントに覚えてないんですか?」
「思わせ振りなこと言わないで。たとえ事実だとしてもそんなの思い出したくもないから。君も忘れろ」
「こんなことならビデオカメラ設置しておけばよかったですねぇ。そしたらそれをネタにあなたを脅して、なんでも言うこときかせられたのに」
「ゲスか。そんなこと考えるのは男だけだと思ってた」
「甘いですね。タガさえ外れてしまえば人間は誰しも鬼畜になり得るのです。それはあなたが身をもって経験しているはず」
「そういう君は常に外れてるよね、タガ」
「まだ緩めてる程度です」
「絶望した」
「さらにいいことを教えてあげましょう。私はまだ三回分タガを残しています」
「どっかの宇宙の帝王みたいなこと言うな」
「一回目で常識を破り、二回目で法律を破り、三回目で物理法則を破ります」
「正統派スポーツ漫画がギャグバトル漫画に路線変更してくみたいだな」
「破るで思い出したんですが」
「思い出さなくていい」
「どうやって破瓜しましょう? 私あんな痛み耐えられません」
「もう諦めろ」




