お別れ会
雲一つない静かな夜。無数に輝く街の光にまた一つ、小さな明かりが混じります。そのささやかな灯の中で、二つの影が揺らいでいました。
「お別れ旅行の計画立ててたんですが、やっぱりセッ……ドンチャン騒ぎするなら宅飲みのほうがいいという結論に至りました」
「だろうね。ただでさえ何かとお金がかかる時期なのに、無駄遣いする必要なんてないよ」
「明日ってお休みでしたよね?」
「うん、休みっていうか、今までの職場はもう今日でお別れ。引っ越しが今週の日曜日だからね」
「じゃあ今日は安心して酔い潰れられますね。お酒たくさん買ってきました」
「えっ、今から飲むの? 君って明日仕事あるんじゃなかったっけ」
「風邪を引くので大丈夫です」
「大丈夫じゃないだろ。社会人の自覚あるのか」
「朝方に電話します。もしもし、すみません、なぜか頭痛が酷くて……」
「それは二日酔いだ」
「お腹のあたりが重くて」
「胃もたれだ」
「がらがら声で」
「酒焼けだ。たまに職場でもそうやって電話してくるやついるけど、ほめられたことじゃないよ」
「冗談です。有給取りましたから安心してください。まあ一杯どうぞ」
「あ、ありがとう。君も一杯」
「少なめでいいですよ? また酔い潰れてあなたに迷惑かけるのもなんなので」
「それは助かるな」
「あと酔い潰れたところであなたが襲ってくれないとわかったので」
「……だから今度は逆に僕を酔い潰そうと?」
「いえいえそんな、そんなわけないですよぉ」
「ホントに? 目が北島康介ばりに泳いでるけど。ダイナミックなバタフライ泳法だけど」
「いろんな種類のお酒買ったので飲み比べてみてください。混ぜてみてもいいかもしれません」
「強引にスルーするな」
「あなたってお酒強いんでしたっけ? はい、どうぞ」
「弱いと思うよ。あんまり飲んだことないからわからない。うわっ、なにこれめちゃくちゃ強い!」
「ウイスキーのビール割りです」
「馬鹿じゃないの!? ほとんど割れてないよ! 本気で潰す気か!」
「炭酸入ってるんですから、炭酸割りみたいなものですよ。ワインとか日本酒もあります。結構高いやつ買ってみました」
「飲まないくせに次々開けるのやめて。古くなるじゃん」
「私だってちゃんと飲んでますって。ほら」
「それは何? ハイボール?」
「ジン・ジャーエールです」
「ジン・トニックみたいに言うな。要するにただのジンジャーエールじゃねぇか。僕にもノンアルコールくれない?」
「ではウーロン、はい」
「どうも。ってこれもアルコール入ってるじゃん! ウーロン茶じゃなくてウーロンハイじゃん!」
「そう言いました」
「はいって渡したんじゃないのかよ!」




