未来投資
雲一つない静かな夜。無数に輝く街の光にまた一つ、小さな明かりが混じります。そのささやかな灯の中で、二つの影が揺らいでいました。
「そういえば、あなたは新居の下見に行かなくていいんですか?」
「あれ、言ってなかったっけ? 社員寮だからそういう面倒な手続きいらないんだよ」
「なるほど。ということは家賃もかなり安く済むってことですね。羨ましい限りです」
「そうだね、今までもシェアしてたからそれなりに安かったけど、来月からは生活費含めて毎月三万円かからないくらいかな」
「ではその分貯金に回せますね!」
「なんだその良い笑顔は。もちろん浮いた分は貯金するけどさ……君がそれ言ったらなんだか強制されたみたいに感じる」
「また邪推しちゃって……。でも普通、愛しの彼女と再び同じ屋根の下で暮らしたいと心の底から渇望しているなら、一ヶ月に十万や二十万くらい余裕で貯められますよね?」
「凄まじいプレッシャーで自主性を促された。それを強制と言うんじゃなかろうか」
「そうです! ここは二人共通の口座を作って未来投資しましょう。協力して結婚資金を貯めるんです。そしてノルマをクリアできたら改めて二人で生活する、と」
「銀行口座って共有できるんだっけ?」
「あなたが通帳、私がカードを持てば大丈夫です。ひょっとしたら別の形式のサービスもあるかもしれません」
「ならやってみてもいいかな」
「では私は一日あたり五百円、あなたは一日あたり一万円を入金するということで」
「待てこら。ワンコインってなんだよ。それ入金手数料だろ」
「だって私は毎日これくらいしか浮きませんし。あくまで一日あたりに換算したらの話です」
「僕もなんで毎日諭吉一人失うはめになるんだよ。豪遊レベルじゃん」
「あくまで一日あたりの」
「一ヶ月に三十万って給料全額注ぎ込んでも無理だわ! 何食って生きてけばいいんだ!」
「断食系男子なら何も食べなくても大丈夫です」
「性欲はコントロールできても食欲は不可能だ!」
「わかりましたよ。私とあなたでその月に浮いたお給料を全て貯金に回しましょう」
「その日が来るまで引き出さないって条件付きね」
「えー、せっかくFXで十倍くらいに膨らませてあげようと思ってたのにー」
「完全に死亡フラグだからやめろ。一瞬で無くなるどころか負債まで抱える未来が容易に想像できる」
「宝くじで百倍くらいに」
「運にしか頼らないのはもっとやめて」
「印刷機で千倍くらいに」
「だからって物理的に増やすな! お金の複製は犯罪です!」
「刑務所に夫婦部屋ってありますかね?」
「ない!」




