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163/2024

取り換え

 雲一つない静かな夜。無数に輝く街の光にまた一つ、小さな明かりが混じります。そのささやかな灯の中で、二つの影が揺らいでいました。




「居間の蛍光灯がチカチカしてますけど、そろそろ換え時ですかね?」


「朝からそんな感じだったよ。君は出勤ギリギリまで寝てたから気づかなかっただろうけど。帰りに電気屋に寄って新しいやつ買ってきたから心配無用だ」


「早速取り換えましょう。私がやるので肩車お願いします」


「普通にイスに乗れば届く高さだから、そんなことする必要ないよ」


「もう、空気読んでください。恋人同士で肩車なんて最高のラブロマンスを逃す気ですか」


「蛍光灯の交換にロマンスなんてあるのか」


「暗闇の中でふいに触れ合う二人の首と股……うーんロマンチック」


「理解不能」


「それじゃあ電源を落として、と。行きますよ。パイルダー、オン!」


「おいラブロマンスどこいった」


「ゆっくり立ってください。あ、立つっていうのは足でって意味でして」


「他に何があるんだ」


「ひゃあ、こうしてみると結構高いですね。失禁しそう」


「絶対やめろ。このシャツお気に入りなんだから。あと思ったよりつらいから早く交換終わらせてくれ」


「了解しました。フルオレセントライト、リニューアルチェーンジ! オールドデバイス、リリーヴ! ぴきゅいーんぎゅがががが……うぃーんがちゃこん……がちゃこん……がちゃ……あれ……?」


「早くしろよ! 手際悪いならせめて黙ってやれ!」


「取れました。わお、蛍光灯の裏面、ススとホコリだらけです。指が真っ黒に……」


「だからって僕の顔に擦り付けるな! 振り落とすぞ!」


「あれ? どっちが新しいやつでしたっけ?」


「汚れてないほう! 見りゃわかるだろ!」


「こっちですね。フルオレセントライト、リニューアル……」


「いちいち言わなきゃいけないのかそれは! もうそろそろ限界だからマジで!」


「はい、終わりましたよ。下ろしてください」


「ふぅ……、なんで蛍光灯換えるだけでこんなに疲れなきゃならないんだ……」


「肩車程度でこんなにへばるなんて体力無さすぎじゃないですか?」


「少しは労え」


「蛍光灯さん、今までお疲れ様でした」


「そっちじゃない」





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