取り換え
雲一つない静かな夜。無数に輝く街の光にまた一つ、小さな明かりが混じります。そのささやかな灯の中で、二つの影が揺らいでいました。
「居間の蛍光灯がチカチカしてますけど、そろそろ換え時ですかね?」
「朝からそんな感じだったよ。君は出勤ギリギリまで寝てたから気づかなかっただろうけど。帰りに電気屋に寄って新しいやつ買ってきたから心配無用だ」
「早速取り換えましょう。私がやるので肩車お願いします」
「普通にイスに乗れば届く高さだから、そんなことする必要ないよ」
「もう、空気読んでください。恋人同士で肩車なんて最高のラブロマンスを逃す気ですか」
「蛍光灯の交換にロマンスなんてあるのか」
「暗闇の中でふいに触れ合う二人の首と股……うーんロマンチック」
「理解不能」
「それじゃあ電源を落として、と。行きますよ。パイルダー、オン!」
「おいラブロマンスどこいった」
「ゆっくり立ってください。あ、立つっていうのは足でって意味でして」
「他に何があるんだ」
「ひゃあ、こうしてみると結構高いですね。失禁しそう」
「絶対やめろ。このシャツお気に入りなんだから。あと思ったよりつらいから早く交換終わらせてくれ」
「了解しました。フルオレセントライト、リニューアルチェーンジ! オールドデバイス、リリーヴ! ぴきゅいーんぎゅがががが……うぃーんがちゃこん……がちゃこん……がちゃ……あれ……?」
「早くしろよ! 手際悪いならせめて黙ってやれ!」
「取れました。わお、蛍光灯の裏面、ススとホコリだらけです。指が真っ黒に……」
「だからって僕の顔に擦り付けるな! 振り落とすぞ!」
「あれ? どっちが新しいやつでしたっけ?」
「汚れてないほう! 見りゃわかるだろ!」
「こっちですね。フルオレセントライト、リニューアル……」
「いちいち言わなきゃいけないのかそれは! もうそろそろ限界だからマジで!」
「はい、終わりましたよ。下ろしてください」
「ふぅ……、なんで蛍光灯換えるだけでこんなに疲れなきゃならないんだ……」
「肩車程度でこんなにへばるなんて体力無さすぎじゃないですか?」
「少しは労え」
「蛍光灯さん、今までお疲れ様でした」
「そっちじゃない」




