使い道
雲一つない静かな夜。無数に輝く街の光にまた一つ、小さな明かりが混じります。そのささやかな灯の中で、二つの影が揺らいでいました。
「節約生活が三日を越えましたね。貯金箱にも二千円ほど貯まりました」
「正直びっくりだよ。君って飽きっぽいから、今回も三日坊主で終わると思ってた」
「モチベーションが違うのです。以前は一日千円ほどかかっていたと思われる生活費が、今は五百円以下に抑えられています。この調子で無駄遣いをせずに行けば……」
「行けば?」
「十万日後には五千万円貯まります!」
「仮に生きていられたとして二百年以上後の未来に円なんてあるかなぁ……?」
「一万日後だとしても五百万円です」
「五百円玉一万枚は圧巻だろうな。家の床が抜けそう」
「そしたら貯まった五百万円で修理すればいいんです」
「馬鹿の極みだ」
「大量消費社会の縮図と言ってください」
「突然世の中を皮肉りだすんじゃない。経済を回すにはそういう無駄も必要なんだよきっと」
「貯めたお金を何に使うかは、やはり一番の問題ですね。今後のモチベーションにも関わってきます」
「でもいろいろ我慢してコツコツ貯めたお金だと、相当手放しにくいと思うよ。それに見合うだけのものにしか使えないだろうね」
「そう、ただの五百万円とは値段が違うのです」
「いや値段は言わずもがな五百万円だ」
「使い道はどうしましょうかねー。宝くじにでも全額叩き込みますか」
「なぜそこで一か八かの賭けに出る。確かに百倍くらいになる確率もなきにしもあらずだけど、下手したらドブに捨てるようなことになりかねないぞ」
「だからといって贅沢するというのも本末転倒な気がします。あ、でも豪華絢爛生活からいきなり元の質素倹約生活へシフトしたら、千昌夫の気分を味わうことができるかも」
「それになんの価値があるんだ。一万枚の五百円玉をお札にするのも大変そうだね」
「面倒ですからいっそお金として使わず、空から撒いて街をパニックに陥れるというのは」
「こないだから君はこの街になんの恨みがあるの? 空から五百円玉なんて降ってきたら頭撃ち抜かれて死ぬわ」
「そのとき人は、お金というものが持つ重み、その恐ろしさを知るのでしょうね」
「そうだけどそうじゃない」




