前と同じネタ
雲一つない静かな夜。無数に輝く街の光にまた一つ、小さな明かりが混じります。そのささやかな灯の中で、二つの影が揺らいでいました。
「今日は世界社会正義の日です。貧困の撲滅や公平な社会の実現を目指す日です」
「あれ? おかしいな。その記念日どこかで聞いたことある気がする。具体的には一ヶ月前くらいに」
「ほほう、いわゆるデジャヴってやつですか」
「いや、あのときは単純に君が間違えただけであって……その言葉も最近聞いたことあるぞ」
「なるほど、三周目の世界ですか」
「ただ前と同じネタに走ろうとしてるだけだろ! さっきからしつこいんだよ!」
「『前と同じネタ』……日常系作品に訪れる恐怖。あらゆるネタを使えてしまうがゆえの、過去の話とのネタかぶり。とうとう私たちにもそのときが来てしまいましたか」
「今のはわざとだったろ。ようするにネタ切れじゃないのか」
「ネタなんて元々切れてます」
「ぶっちゃけた」
「ネタ切れと似ていますが『前と同じネタ』は更に恐ろしい現象になりますね。過去にやったことがある話をそうとは気づかずもう一度やってしまうわけですから、端から見ていて愚かしいというほかありません。指摘された日には恥ずかしさで興奮してしまいます」
「変態か」
「今はまだそこまで深刻ではありませんが、五年後十年後はわかりません。あらゆる記念日、物事、出来事について話題にし尽くし、何かを新しいことを話そうとしたら時事ネタくらいしかない……」
「五年十年って、そんな長い間続かないと思うけど。そもそもそこまでずっと付き合ってくれる人がいるかどうか」
「ご安心ください。私はいつまでも付き合いますから」
「大前提だ。お前が投げ出したら続かないだろ。なんでドヤ顔なんだ」
「とにかく今のうちに対策を考えておきましょう。過去のネタとかぶらないためにはどうすればいいでしょうか」
「素直に時事ネタ中心にすればいいじゃん。某週刊少年誌の某長期連載マンガみたいに」
「時事ネタは商業作品とかぶる恐れがあります。そうなったら面白さで勝てるわけがありません」
「なんでこういうときだけ弱気?」
「もしかぶって、ギャグなんかも同じだったらパクり疑惑が浮上してしまうじゃないですか。それで炎上なんてした日には悔しさで興奮してしまいます」
「変態か」
「そこで提案です。もう思いきって毎日同じ話をしてしまうというのは」
「思いきる方向がおかしい。何が面白いんだそれは」
「お約束的な面白さです」
「約束され過ぎだ。壊れたラジカセか」
「前日とはどこかがちょっとだけ違って、それを探すという」
「面白さの方向までおかしくするな」




