貯金
雲一つない静かな夜。無数に輝く街の光にまた一つ、小さな明かりが混じります。そのささやかな灯の中で、二つの影が揺らいでいました。
「貯金を始めてみようと思いまして、五百円玉で十万円貯まる貯金箱を買ってきました」
「え、君ってそういう堅実なタイプじゃないと思ってたけど、突然どうしたの?」
「こないだからお昼ご飯にお弁当作ってもらうようになったじゃないですか。その分のお昼代が浮いたので、せっかくですから無駄遣いせず貯金してみようと思ったんです」
「いいことだね。十万円貯まったら何に使うの?」
「それは貯まってから考え……っ! ま、まさかお弁当を作って食費を浮かせているあなたに還元しろと!?」
「そんな野暮なこと言うか。せっかく君が無駄遣いから脱却しようとしてるんだから、むしろ協力するよ」
「じゃあ今持ってる五百円玉全部入れてください」
「調子に乗るな。そんなことしなくたって一日一枚入れてけば一年も経たない内に貯まるだろ。実際はそんな毎日続けられないと思うけど」
「あなたも協力してくれれば半年も経たない内に貯まります。ひょっとしたら半年以上かかるかもしれませんが」
「サボる気満々か。好きに使いたきゃ自力でやれ」
「しかし五百円貯まりきったとして、小銭じゃない状態にするにはどうすればいいんですかね? まさかそのままお店で使うわけにはいかないでしょう? ATMだと後ろに大行列を作ってしまいそうです」
「普通に銀行に持っていけばいいじゃん」
「そんなことしたら銀行の人に『こいつコツコツ五百円玉で十万円貯めてやんのー。プププ俺なら三日で稼げる』って笑われてしまいます」
「君の目にはどれだけ世の中が汚れて見えてるの?」




