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合わせ技

 雲一つない静かな夜。無数に輝く街の光にまた一つ、小さな明かりが混じります。そのささやかな灯の中で、二つの影が揺らいでいました。




「ここ最近おやつにチョコばっかり食べてる気がします。バレンタイン気分が全然抜けません。脳内で延々と国生さゆりの歌が流れてます」


「バカみたいに作りすぎた君が悪いんだろ。しかもわざわざ不味くして」


「チョコなんてそんなに急いで消費するものでもないでしょう。チョコだけにちょこちょこ食べていきましょう」


「やかましい。冷蔵庫の場所取ってるのが問題なんだよ」


「カロリー摂りすぎだからって食事が野菜中心になってるのも不満なんですよねぇ……。もっとスパイシーなお料理が食べたいんですけど」


「それなら今日の夕飯はカレーだから安心してよ」


「おお、さすがは私の見込んだ人です。こちらの気持ちを察してくれているとは……うェェ、甘っ! なんですかこれ!」


「チョコってカレーの隠し味に使われたりするじゃん? だから思い切ってチョコ味のカレーを作ってみたんだ」


「検非違使忠明もここまで思い切りませんよ。いつも美味しい料理を作ってくれるあなたが、今日はどうしてこんなチャレンジブルなことを……。私があまりにも不味いものしか作らないものだから、とうとう味覚が壊れちゃいましたか?」


「そこまで自覚があるなら自分で直そうとしろ。まあ、甘辛って味のジャンルもあるし、これだってナシじゃないと思う」


「甘辛は砂糖と香辛料のバランスが絶妙に取れてるもののことを言うんです。ゴジータなんです。これベクウじゃないですか」


「ベクウだって弱いわけじゃないよ別に。チョコ味のカレーだと思うからいけないんだ。カレー味のチョコだと思え」


「似た話をどこかで聞いたことがあるような……。このマズさ、あなたも一口食べてみれば分かります」


「もちろん味見くらいしてるよ。……うん、斬新な味だ。君の愛がこもってるからかな?」


「こんなエキセントリックな愛こめてません」


「いや、君のは正直このくらいハイレベルな異常性を有してると思うよ」


「……なるほど。そんなカレーを平然とたいらげることで、君の愛を受け止められるのは僕だけだ、と暗に言いたいわけですか。惚れ直しました」


「君の耳は他人の発言を都合よく解釈するための器官でも備えてるのか」





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