チョコレート
コタツの中で足を温め、窓の向こうの夕焼けと街の灯りを見つめながら。
一日の終わりに、二人は他愛ない会話を始めます。
「もうすぐバレンタインデーですね。クリスマスのときもそうでしたけど、あっちこっちで今度はチョコレートセールしてます」
「ある種のお祭りだね。お菓子メーカーも稼ぎ時だ。ところで、料理の腕前に難のある君は、まさか手作りチョコを誰かにあげようとか考えてないよね?」
「ご期待に沿えるよう頑張ります」
「期待以前に不安的中だ……。既製品でいいのに」
「私の愛を込めたチョコレートは、あいにくお金で買えないんです」
「君の愛で僕の余命があと5日」
「ラノベのタイトルみたいなセリフやめてください。融かして固めるだけですから、そんな爆弾作りませんって」
「湯煎の大変さを知らないやつの言葉なんて信用できるか」
「大変なのは知ってますよ。平日はきっと暇がないので明日あたり作ろうかと思うんです。手伝ってもらえますか?」
「それはそれでどうなんだ。なんか僕が自分のためにチョコ作るみたいじゃんか」
「もちろん私が一人で作ってもかまいません。その場合でもちゃんと食べてもらえるなら」
「その脅迫、自分で言ってて悲しくならないのか……? わかったよ、手伝う。何を作る予定なの?」
「まだ悩んでます。あんまり難しくないものにしようとは思ってますけど。いっそのことチョコレートフォンデュみたいにしてもいいかと」
「ああ、確かにそれは名案かも。フォンデュなら明日でなくても、バレンタインデー当日にチョコだけ融かしておけば」
「あとは私の指や足をつけてあなたに食べてもらうだけですもんね」
「違う」
「え? まさかもっと別の部位をご所望ですか?」
「ご所望じゃない。普通チョコフォンデュにつけるものって言ったらイチゴとかパンとかだろうが。なんで突然そんなマニアックなプレイの話になってるんだよ」
「バレンタインデーと言えばクリスマスに次ぐカップル専用イベントじゃないですか。昼にチョコをあげたら夜に練乳をもらえるイベントじゃないですか」
「どんな認識だ」
「チョコにつけた私を自由にペロペロできるなんて幸せ者ですね。チョコパイもチョコまんも食べ放題」
「あーあー聞こえない何も聞こえない」




