土手クッキング
土手に座り込み、沈む夕日と川のせせらぎを見つめながら。
一日の終わりに、二人は他愛ない会話を始めます。
「土手クッキングの時間がやって参りました。本日料理をするのは私です」
「教えるのは僕です。っていうか土手クッキングってなんだよ。語呂悪いな」
「土ー手ー三分クッキングの時間が」
「キューピーみたく伸ばすな。なんか響きがアレになるから。三分でもないし」
「さて先生、今日は何を作るんでしょうか」
「肉じゃが。とりあえずこのくらいは作れるようになってもらわないと。材料は揃ってる?」
「はい。ベーコン、ジャガイモ、ニンジン、タマネギ、糸こんにゃく、カレー粉――」
「ちょっと待って。今、肉じゃがに必要ないものが聞こえた。何?」
「カレー粉です」
「そんなの入れたら紛うことなきカレーになっちゃうだろ。具材ほとんど同じなんだから」
「味付けに困ったらカレー粉を入れておけば間違いありません」
「どういう理論だ。ちゃんと調味料使って味付けするの。じゃ、まずニンジンとジャガイモは皮を剥いて一口大、タマネギは一センチくらいの幅で切る」
「一口大だったら切らなくても大丈夫ですね」
「丸呑みか。一口どんだけでかいんだ君は。めんどくさがらずちゃんと切れ」
「タマネギは目にしみるので嫌いです」
「みじん切りじゃないんだからそこまででもないと思うけど」
「うぅ、これでいいですか?」
「涙目で上目遣いとかやめなさい。なんか悪いことさせた気分になる」
「次はどうすれば?」
「油を大さじ一、鍋にしいたらタマネギを中火で炒める」
「うあああ目にしみる……女の子泣かせるなんて最低です」
「うん、なんか普段絶対見られない君の泣き顔が可愛く見えてきた。最低かもしれない僕」
「いつまで炒めればいいんですか?」
「タマネギが飴色になるまで。そしたらニンジンとジャガイモを加えて、また炒める」
「腕が辛いです」
「そこに切ったベーコンと糸こんにゃくを入れて水を加え、だしの素と醤油と砂糖を必要量の半分入れてしばらく煮込む」
「なんで一気に全部入れないんですか?」
「煮込んだあとに味見しながら調節するんだよ。さて、できるまでどうしようか」
「完成したものがこちらになります」
「なんで用意してあるんだ。ってカレーじゃないか!」
「困ったらカレー粉を入れておけば間違いありません」
「さっきからなんなのそのカレー粉への絶大な信頼は。タマネギ入ってないし。ちょっ、これジャガイモ皮剥いてないし!」
「もう暗いですし、この肉じゃがは持ち帰って私がいただきます。代わりにそのカレーをどうぞ。味見はしたので問題ありません」
「……まぁ、せっかく作ってくれたんだしね。ありがとう」
「ふふ、どういたしまして」
このとき、私は思ってもみなかった。私のカレーで彼があんなことになるなんて……。
「不吉なモノローグ入れるのはやめてくれるかな?」
一人が腰を上げると、もう一人も立ち上がります。
そうしてどちらからともなく手を繋ぎ、今日に背を向けて、去っていきました。




