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14/2024

土手クッキング

 土手に座り込み、沈む夕日と川のせせらぎを見つめながら。

 一日の終わりに、二人は他愛ない会話を始めます。




「土手クッキングの時間がやって参りました。本日料理をするのは私です」


「教えるのは僕です。っていうか土手クッキングってなんだよ。語呂悪いな」


「土ー手ー三分クッキングの時間が」


「キューピーみたく伸ばすな。なんか響きがアレになるから。三分でもないし」


「さて先生、今日は何を作るんでしょうか」


「肉じゃが。とりあえずこのくらいは作れるようになってもらわないと。材料は揃ってる?」


「はい。ベーコン、ジャガイモ、ニンジン、タマネギ、糸こんにゃく、カレー粉――」


「ちょっと待って。今、肉じゃがに必要ないものが聞こえた。何?」


「カレー粉です」


「そんなの入れたら紛うことなきカレーになっちゃうだろ。具材ほとんど同じなんだから」


「味付けに困ったらカレー粉を入れておけば間違いありません」


「どういう理論だ。ちゃんと調味料使って味付けするの。じゃ、まずニンジンとジャガイモは皮を剥いて一口大、タマネギは一センチくらいの幅で切る」


「一口大だったら切らなくても大丈夫ですね」


「丸呑みか。一口どんだけでかいんだ君は。めんどくさがらずちゃんと切れ」


「タマネギは目にしみるので嫌いです」


「みじん切りじゃないんだからそこまででもないと思うけど」


「うぅ、これでいいですか?」


「涙目で上目遣いとかやめなさい。なんか悪いことさせた気分になる」


「次はどうすれば?」


「油を大さじ一、鍋にしいたらタマネギを中火で炒める」


「うあああ目にしみる……女の子泣かせるなんて最低です」


「うん、なんか普段絶対見られない君の泣き顔が可愛く見えてきた。最低かもしれない僕」


「いつまで炒めればいいんですか?」


「タマネギが飴色になるまで。そしたらニンジンとジャガイモを加えて、また炒める」


「腕が辛いです」


「そこに切ったベーコンと糸こんにゃくを入れて水を加え、だしの素と醤油と砂糖を必要量の半分入れてしばらく煮込む」


「なんで一気に全部入れないんですか?」


「煮込んだあとに味見しながら調節するんだよ。さて、できるまでどうしようか」


「完成したものがこちらになります」


「なんで用意してあるんだ。ってカレーじゃないか!」


「困ったらカレー粉を入れておけば間違いありません」


「さっきからなんなのそのカレー粉への絶大な信頼は。タマネギ入ってないし。ちょっ、これジャガイモ皮剥いてないし!」


「もう暗いですし、この肉じゃがは持ち帰って私がいただきます。代わりにそのカレーをどうぞ。味見はしたので問題ありません」


「……まぁ、せっかく作ってくれたんだしね。ありがとう」


「ふふ、どういたしまして」

 このとき、私は思ってもみなかった。私のカレーで彼があんなことになるなんて……。

「不吉なモノローグ入れるのはやめてくれるかな?」




 一人が腰を上げると、もう一人も立ち上がります。

 そうしてどちらからともなく手を繋ぎ、今日に背を向けて、去っていきました。

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