焼き芋
コタツの中で足を温め、窓の向こうの夕焼けと街の灯りを見つめながら。
一日の終わりに、二人は他愛ない会話を始めます。
「たまの休日なのでお料理でもしましょうか」
「え!? 何を犠牲にしようとしてるの!?」
「犠牲とはまた随分な……」
「決して大げさに言ってるつもりはないぞ。一体何作る気なの? 死チュー? 殺ッケ?」
「言葉に若干悪意を感じるんですけど……。今回は失敗するような料理じゃありませんからご安心を。焼き芋です」
「焼き芋? 確かに焼くだけなら簡単だけど、家で作っても美味しくならない料理の筆頭じゃんか」
「焼き芋屋さんが来たらもちろんそっちを買いますよ? でも食べたいときに限って来ませんからね」
「スーパーで買えば?」
「外に出たくありません。サツマイモはうちにあるわけですし。さて、調理する上で何かアドバイスありますか?」
「低温でゆっくり加熱すると甘くなる。難しいけど」
「ふむ、ならば焼かずに私の熱い抱擁で」
「人肌で芋が焼けてたまるか。そこまで低温じゃない。デンプンが糊化するのが六十五度から七十五度、アミラーゼの耐熱温度が七十度までだから、六十五度から七十度の間を保たないといけない」
「……それ結構難しくないですか?」
「だから言ってるじゃん難しいって」
「身の回りにそのくらいの温度が出るものってありませんでしたっけ?」
「パソコンのCPUとか」
「それです!」
「どれだよ。どうする気だよ」
「放熱ファンを取り外して代わりにお芋を」
「どんな魔改造だ。パソコン壊れるわ」
「無理ですか。じゃあお芋にドライヤー当て続けるとか」
「電気代払ってくれるならいいよ」
「使い捨てカイロを回りに貼り付けるという手もありますね」
「もうスーパーで石焼き芋買え」
「それはできません。家で美味しい焼き芋を作ったという伝説を作りたいんです」
「いつの間にか目的が変わってる気が……」
「あっ、炊飯器の保温モードってちょうど六十度くらいじゃないですか?」
「ああ、確かにそうかも。炊飯器に放り込んでおけばいいのか」
「ふはははは、どうです! これが発想の勝利!」
「でもそれだとご飯炊けなくなるぞ」
「ご飯がないならお芋を食べればいいんです」
「マリー・アントワネットか」
「ヤキー・ポテトワネットです」
「無理矢理ー」




