絶食系
コタツの中で足を温め、窓の向こうの夕焼けと街の灯りを見つめながら。
一日の終わりに、二人は他愛ない会話を始めます。
「巷で絶食系男子というやつが取り沙汰されているようです」
「ふーん」
「巷で絶食系男子というやつが取り沙汰されているようです」
「……なんで繰り返した」
「いえ別に、なんとなくです。話は変わりますが、今夜一緒に寝ませんか?」
「やだよ」
「お分かりいただけただろうか。今、私の目の前にいるのが、巷で噂の絶食系男子である」
「なんかムカつくんだけど。話変わってないし」
「本当のことを言ったまでです。トレンドみたいですし、キーワードに『絶食系男子』って入れたらアクセス数増えますかね?」
「『肉食系女子』も入れるなら別に構わない」
「私は別に肉食系じゃありませんよ。あなたしか食べたくありませんから」
「喜ぶべきか嘆くべきか」
「いやいや喜ぶべきでしょうそこは。そんなことだから絶食系なんて言われるんです。だいたい目の前にいつでもウェルカムな可愛い女の子がいて手を出さないって、どういう心理状態なのか……教えてくださいよ」
「さぁね。自分で自分のこと可愛いと思ってるようなやつの思い通りにコトが進むのが嫌だとか、そういう感じじゃない?」
「なるほど。つまり主導権を握りたいわけですか」
「君はいつも絶妙に受け取り方を間違えるよね」
「でも、私のこと好きなんですよね?」
「好きだよ」
「そ、そんな面と向かって言われると照れちゃいます……。じゃあ、あなたの性欲の障壁になっているものって一体なんなんです?」
「なんかやな言い方だな……なんだろうね。一応結婚するまではって思ってるけど、君と話すだけで欲求不満とかの諸々が解消されてるんじゃない?」
「普段突っ込んでいるからベッドで突っ込む気が起きないと」
「だいぶ使い古されてるよね、その言葉遊び」
「そういえば年始に私がボケなくなってたときは少し落ち着きがなくなってましたね。じゃあずっとあの人格でいればいいわけですか。後輩位」
「あれは本気で困るからやめてくれ。すごく調子狂う」
「しかし後輩位になると、今度は私がエッチなことに尻込みしちゃうんですよね。後輩位だけに」
「うまくないよ」
「うーむ、あっちを勃てればこっちが勃たず」
「漢字がおかしい」
「実際ただの食わず嫌いですって。一度食べてみれば病みつきになりますから」
「その言い方食欲が失せるよ」
「何にせよそろそろ進展させてくれないと、この作品の名前『絶食彼氏。』にしますよ?」
「なんか聞いたことあるんだけど」
「私と無欲なアンドロイドであるあなたのラブストーリーです」
「なんか聞いたことあるんだけど」




