社会正義
コタツの中で足を温め、窓の向こうの夕焼けと街の灯りを見つめながら。
一日の終わりに、二人は他愛ない会話を始めます。
「今日は『世界社会正義の日』です」
「大仰な名前だけど、何をする日なの?」
「貧困の撲滅や公平な社会の実現を目指す日です。というわけで、私たちも今日は社会正義の味方になりましょう」
「なんだ社会正義の味方って。具体的に何と戦うんだ」
「説明しましょう! 社会正義の味方は日々、世を害する社会的強者から社会的弱者を守っているのです! 例えば不正が発覚した大企業を叩いたり」
「ああ、正義の味方って言ってもやっぱりフィジカルな活躍をするわけじゃないんだ」
「いえ、ちゃんと本社に火炎瓶を投げに行ったりもします」
「いきなり過激だなオイ! ちゃんとってなんだよ。ヒーローがそんなことしてるの見たことないよ」
「正義はフィクションほど美しいものではありません。それが社会のためなら、社会正義の味方はいくらでも手を汚すのです」
「鬱屈したヒーローだなぁ。本当に社会のためになってるのか」
「社会が社会正義の味方を批判しない限り、社会正義の味方の正義は社会正義であり続けるのです」
「なんか社会正義がゲシュタルト崩壊してきた。他には何するの?」
「他には失言した芸能人のブログを炎上させたり」
「ちっさ! 君のそれ絶対社会正義じゃないよ。貧困の撲滅はどうした」
「社会正義の味方自身が貧困側の人間なので、社会正義の味方の利益が貧困の撲滅に繋がるのです」
「都合いいー」
「ツイッターやフェイスブックで軽犯罪自慢があれば拡散し、持ちうる限りの罵詈雑言で悪を貶す。本当は心苦しいですが、これも社会のため」
「いや、明らかにストレス発散してるだろ」
「社会正義の味方だって時には心を鬼にしなければなりません」
「さっきからずっと鬼なんだけど。他人を不幸にして喜ぶ鬼畜そのものなんだけど」
「社会正義の味方の活躍がなければ、一体どれだけの社会的弱者たちの血が流れると思ってるんですか!」
「少なくとも失言で血が流れることはないと思う。君のは社会正義じゃないよ」
「ではどんな行為が社会正義だと言うんです?」
「えっと、献血に協力したり」
「社会正義の味方の血が流れるなんてゴメンです」
「もうお前は正義の味方を名乗るな。他にはボランティアに参加したりとか」
「えー、そんなのつまんないじゃないですか」
「今とんでもない失言を聞いた気がする」




