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119/2024

五百円

「いやぁ、突然断水だなんてびっくりしましたね。近場に銭湯があって良かったです」


「ホントにね。料理もできないから、夕飯も近くのラーメン屋で済ませちゃおうか」


「いいですね。とその前に、お風呂上がりのコーヒー牛乳を一杯……あ」


「どうしたの?」


「私の五百円が! 自販機の下に!」


「あーあ。もったいない」


「な、なんとかして取り戻さねば! ああ、あんな奥のほうまでいっちゃうなんて……」


「こら、自販機の下漁ってるみたいで恥ずかしいぞ。子供じゃないんだからやめろ」


「ではあの五百円は諦めろと!? そんな殺生な。お客様の中にお子様はいらっしゃいませんかー!?」


「叫ぶな」


「だって五百円ですよ? 百円ならまだしも、うまい棒五十本分ですよ? キャベツ太郎二十袋分、蒲焼きさん太郎五十枚分、マルカワコーラフーセンガム五十個分、チョコバット十五本分ですよ!?」


「なんで全部駄菓子換算なんだ。嗜好まで子供なのか」


「発泡酒と焼き鳥で晩酌できるんですよ!?」


「だからって一気におっさん臭くなるなよ」


「これが遠足なら、持っていけるおやつ五百円分を全て失ったことになります。みんなが和気あいあいとおやつ交換している中、私は一人群れを離れて食べられる野草を探すことに……」


「悲しい想像して勝手に鬱な気分になるの、悪い癖だぞ」


「ああ、私はこれから一生、五百円程度の買い物を我慢するたびに『あのとき五百円を落としてなければなぁ……』と後悔し続けなければならないんですね」


「いつまで引きずる気だ。ラーメン奢ってあげるからそれで機嫌直せ」


「ま、まことですか! ああ、今ならあなたの言うことなんでもきいてあげられます」


「調子いいなオイ」


「どんな変態的な嗜好にも応えますよ。ナニして欲しいですか?」


「とりあえず掃除してもらおうかな」


「わかりました。全身くまなく舐め」


「部屋の掃除だ。すぐピンク色な方向に話を持ってくんじゃない」


「チョコバットの掃除だってしてあげますよ?」


「最低な隠喩やめろ。もうラーメンのことでも考えとけ」


「そういえばラーメン屋なんて久しぶりです。あなたは何を頼みますか?」


「無難に醤油ラーメンかな。味卵だけ追加する。君は?」


「一番高いやつにトッピング全部で」


「少しは遠慮しろ」

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