違い
雲一つない静かな夜。無数に輝く街の光にまた一つ、小さな明かりが混じります。そのささやかな灯の中で、二つの影が揺らいでいました。
「あのー、今日の私を見て何か気づくこととかありませんか?」
「いきなり何? そわそわして」
「いつもと違うところがあるんですけど、わかります?」
「いつもと違うところ? ちょっと痩せた?」
「違います。そう見えるならそれはそれで正解かもしれませんが」
「いや、適当に言ってみたぶへっ!」
「それは言わなくていいです」
「何もビンタしなくたっていいだろ。もしかして女の子の日なの? へぶっ!」
「違います。死んでください」
「叩かれた上に酷い言われよう。僕も悪かったけど」
「もっとパッと見でわかる変化があるでしょう?」
「えっと……下着つけてないとかぶへっ!」
「違います。さっきから回答が斜め上なんですけど、これからはそういうキャラでいくんですか?」
「君のキャラに合わせて答えてるつもりだよ……」
「今日に限ってはまともです。次から間違えるたびにビンタしましょう」
「なんで罰ゲームみたいに……新しい服買ったとか?」
「惜しいっ!」
「へぶっ! 惜しいのになんでさっきより強く叩くんだよ!」
「惜しければ惜しいほど強くなります」
「それ最終的に正解したらグーで殴られるだろ。もう答えたくない。暴力系ヒロイン反対」
「はぁ……時間切れです。正解は『ヘアスタイルを変えた』でした。彼女のそういうところがわからないなんて、彼氏失格ですね」
「え? 前と全然変わってないじゃん。長さ同じだし」
「長さしか見てないって……。高校物理のおもりをぶら下げた糸ですか私の髪は」
「その喩えはどうだろう」
「ちゃんと見てください。若干パーマがかかってるでしょう?」
「パーマだったのそれ? てっきり寝癖だとぶへっ!」
「よっぽど私にビンタされたいんですね」
「だって君いつもごろごろしてるから。そもそも誰が分かるんだよ、そんなマイナーチェンジ。ウォーリー見つけるより難易度高いよ」
「単にあなたの目が悪いだけです。違いのわからない男は女子に嫌われますよ? そんなことだから社会人になっても童貞なんです」
「髪型の変化に気づかなかっただけでそこまで言うか。君だって僕が髪切ったくらいじゃ気にもとめないだろ」
「舐めないでください。たとえ一センチ切った程度でもわかります。あなたが今日身につけている下着も、あなたに今日何人の女が近づいたかも、あなたが今日何回私の胸元を見たかも全て把握しています」
「恐いよ」




